日本最大のマクロ計量モデルの開発に携わった経済の専門家である、筑波大学・国際大学名誉教授の宍戸駿太郎氏に話を聞きました。

報われない増税にむかおうとする日本政府

増税賛成者ばかり集めた政府主催の有識者会合

政府主催の、消費税増税に関して有識者に意見を聞く点検会合に出席しました。しかし会合には、増税の賛成者ばかり集められ、「消費税を今上げる時期ではない」という意見の人達は一切呼ばないのです。私だけが計量モデルをやっているから呼ばれたのでしょうね。あれだけの大勢の人たちを一週間首相官邸に呼んで話をすると、だいたい8分間以内にまとめてくださいという制約がかかっています。そのなかで私は、経済成長を優先するべきとして、増税に反対しました。「計量モデルの分析によると、消費税増税はデフレを加速させます」「日本経済がようやく回復し始めたのに、また元に戻りますよ」と説明しました。

増税でアベノミクスの効果がストップしてしまう

私のシミュレーションによると、もし、8%、10%と消費税をあげていくのならば、名目GDPが2020年には−56兆円になると予想されています。これはリーマンショック(損失額41兆円)を超える損失です。アベノミクスのはここで完全にストップということですね。第一楽章は素晴らしかったけれども、第2楽章で葬送行進曲のようなことになってしまって、第3楽章はもう収捨不能、世界の笑い者になるでしょう。今、国際的期待が高まって「アベノミクスが経済成長を加速するんだ」と、「今まで止まっていた船が動きだすんだ」と皆が見ているところ、ストップがかかってしまうのですから。

消費税を3%から5%に上げたときにも景気が悪化

1997年、当時の橋本内閣が消費税を3%から5%に上げたことにより、日本の名目GDPの推移わずか5年で24兆円も落ちました。その後これまで名目GDPの水準は1997年以上の名目GDPの水準を超えることはなかったのです。ちょうど、橋本龍太郎総理の時と同じく、その前の年から景気がよくなってきてるのです。バブル潰しのデフレ効果がだんだん消えたころ、消費税2%upをしました。こういったデフレのブレーキをふんだために、景気が急速に悪くなりました。自民党は、そうした計測の分析が良くなかったといえます。内閣府は色々と弁明していますが、我々から見れば消費税2%上げましたから、これは深い影響を与えました。

増税の打撃がないという政府の経済予測は外れる

内閣府は後進国用の財政再建用のモデルを使っている

では、政府はなぜ増税に向けて突き進むのか。財務省増税賛成派が根拠にしていることが内閣府のシミュレーションによると、内閣府の経済予測では消費税増税の打撃はほとんどなく、数年で回復することになっています。これはIMFのモデルにならってつくられたものですが、IMFのモデルとは後進国用の財政再建のためのモデルなので、日本に当てはまるものではありません。

内閣府以外のシミュレーションでは深刻な結果が

計量モデルには、正しい予測をできるものとそうでないものがあります。
消費税を10%にしたときの経済状況について、内閣府以外のシミュレーションでは、まったく異なる結果が出ています。こちらはとても深刻で、増税5年後、名目GDPは−6%以上、あるいはそれ以上落ち込むと出ているのです。つまりこれは1年2年の問題でなく、4~5年先まで成長が落ち、アベノミクスが悪くなるということなのです。こういうことを隠蔽するために、内閣府ではIMF型のモデルが使われています。しかし、甘利経済再生担当大臣も、麻生財務大臣も、「どうも計量モデルはよくわからない」と、危機感のない様子だとのことです。

適切な計量モデルが運用されなくなっている

私は経済企画庁で計量モデルを作った人間の1人です。以前は、経済企画庁が公正・中立・透明な計量モデルを運用していました。計量経済学者が数人集まって、モデルをずっとウォッチしていました。それをぶちこわしたのが橋本デフレ、橋本行政改革です。そして今回の計量モデルは学者ではなく、役人がIMFのモデルを見て作ってしまったということです。

消費増税ではなく経済成長を!

財政破綻はありえない 日本は世界最大の債権国

消費増税をしないと日本の信用を失い、株価・国債の暴落を招くという意見もありますが、それは間違いです。日本は海外にむしろお金を貸しているのですから、世界最大の債権国なのです。こういった国がギリシア悲劇(財政破綻)することはありえません。だから、国債を投げ売りして金利が高騰するとか、あるいは景気が上がるとすぐに、インフレが起こって物価が高騰するとか言いますが、これは具体的に計量実証分析をすれば、事は極めてはっきりわかるんです。

アベノミクスを成功させるための4つの強化策

(1)国土の強靭化、いわゆる公共投資。
(2)法人税の減税(加速償却方式)。
(3)各種の新エネルギー開発など、政策金融で有効需要を増加。
(4)有給休暇を完全消化で消費を増加。

この4項目が実現すれば、経済成長はみるみる上昇します。私のシミュレーションでは、2020年には名目GDPが800兆円を超えます。つまり、消費増税をしなくても経済成長は加速するということです。

収入が増えると税収は自然に増えていく

経済成長して収入が増えると、自然に税収が増えていきます。これを「自然増収」といいます。そうすれば借金の返済を行えます。そして余った部分を財政再建、特に社会保障に充てられるので、より強力な社会保障の設計が可能になります。今までこの方式をとらず、増税をかけていったために、橋本デフレがおこりました。今度同じことをすれば、安倍デフレが起こります。政治家や一般国民は、IMFや財務省の宣伝におびえているわけです。だまされないためには「情報武装」が必要です。