「イスラム国」の勢力は下火になっている

「イスラム国」はつい先日、イラク北部にあるティクリートという要衝をイラクの正規軍に奪還されました。イラク国内ではもうかなり押し込まれ、シリアにどんどんなだれこんでいる状況です。長期的に見れば、その勢力は確実に下火になっているといえるでしょう。

影響力を拡大しているイランが次の火種に?

中東全域でイランが影響力を拡大している

「イスラム国」の動きと対照的なのがイランです。イランはシーア派の国ですが、今イランがこの地域を中心に影響力を拡大していて、次の中東におけるある種の火種になってくることが考えられます。現時点で「イスラム国」ができてから半年以上が経ちますが、結果的に見ると、この中東全域で影響力を拡大しているのは、「イスラム国」などのスンニ派ではなく、シーア派のイランを中心にした勢力であるといえます。

イランが勢力を伸ばした理由は「アメリカとの関係」

イランが急速に勢力を伸ばした理由として一番大きなものは、イランとアメリカの関係に大きな変化が出てきたということ。「イスラム国」ができたことによって、イランとアメリカの国益、利益が一致してきたためです。基本的に共闘態勢を組んでいこうと、歩み寄りの姿勢が出てきました。

核交渉合意で見られたアメリカとイランの歩み寄り

アメリカのスタンスの変化が明確に出たのが、4月2日に決まった、イランとの核交渉の合意です。交渉開始時点でのアメリカは、イランが二度と核兵器を作れないように「核のインフラの全廃」を要求していましたが、今回これがかなり緩められ、「10年経ったら緩和する」という内容に変更となりました。もちろん制約、規制はかけるのですが、基本的には核兵器を作れる状況で、客観的に見ると非常に緩められた合意内容になっています。その要因として、確かにイランの交渉団が強く押したという面もありますが、昨年「イスラム国」ができたことでアメリカがイランの協力を欲して、核交渉の内容で譲歩したというのが最も大きいのではないでしょうか。

イラン台頭による周辺国への影響

こうした変化が中東にありますが、イランの台頭は周辺にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

影響(1) アラビア半島南端の国にまで伸びつつあるイランの影響力

イランは、西隣にあるイラク、その西にあるシリア、さらにその西にあるレバノンという、あわせて「シーア派の三日月地帯」と呼ばれる地域で、今まで以上に強い影響力を発揮しています。さらに今年に入り、イエメンというアラビア半島南端の国――ここはもともとスンニ派政権だったのですが、ここでシーア派系の勢力(ホーシー派)が政権を転覆させました。この裏でイランが水面下で援助していたということがありました。

影響(2) 地理的に間に挟まれたサウジアラビアの攻勢

これらの国々に、地理的に包囲されているのがサウジアラビア。「シーア派の三日月地帯」の一つであるイラクの南、アラビア半島南端の国イエメンの北に位置する、スンニ派の国です。このサウジアラビアが、これまで押されていましたが、今「対イラン」で攻勢をかけはじめています。
この「サウジアラビア対イラン」については過去にも、代理戦争の様相がシリアの内戦で見られました。この内戦はシーア派系のアサド政権とスンニ派の反政府勢力との間で起きた宗派対立の面があるためです。こうした「サウジアラビア対イラン」の代理戦争が、今、アラビア半島南端の国イエメンで始まっています。すでにサウジアラビアはイエメンにあるイランの拠点を空爆するといった本格的な攻撃を行っています。

影響(3) 核交渉合意に危機感を募らせるイスラエル

さて、イランとアメリカが核交渉合意をみたことに、強い危機感をもっているのがイスラエルです。今、イスラエルの我慢の限界が近づいています。イスラエルのネタニヤフ首相は先月のアメリカ議会でも、アメリカ、イランと核で合意すべきではないとの強いメッセージを発信していました。また、今回の核交渉がまとまったことに対しても、強い憤りを発信。中東のイスラム教国、特にイランが核兵器をもつことは、イスラエルにとって国家存亡の危機にあたるのです。

中東で今後起こり得る危機

現時点で、3つの大きな勢力としてイラン、サウジアラビア、イスラエルが挙げられます。これからこの中東地域で「イスラム国」以降に起こり得る危機として、どのようなことが考えられるでしょう。

懸念(1) 核兵器が中東全域に拡散してしまう問題

まず一つ言われているのが、核兵器が中東全域にどんどん拡散していく「核拡散」の問題です。サウジアラビアはすでに、イランとパキスタンが核兵器を持った場合には1カ月以内に核兵器が使えるように入手する計画を立てていると言われています。また、サウジアラビアが核を持ったとすれば、エジプト、トルコも早急に核を持つよう手を打ち始めるでしょう。

懸念(2) イランとイスラエルの有事が近づいている

今後中東で起こり得る危機としてもう一つ挙げられるのが、イランとイスラエルの有事。思っているよりも早い段階で戦闘状態に入る危険性があります。イスラエルは、今回イラン・アメリカ間で結ばれた核合意の枠組みの内容では、絶対にイランが近いうちに核兵器を持つであろうと断定しています。アメリカが頼れないとなると、自分たちでやるしかないという話になります。すでにイスラエルの隣国に位置するレバノン(「シーア派の三日月地帯」の一つ)にまでイランの影響力は強まっているので、イランとイスラエルの有事は思いのほか近づいていることが考えられます。