アメリカ政府が同時多発テロ以来、駐留を続けていたアフガニスタンから米軍を撤退させることを発表した。トランプ大統領の時から決まっていたアフガン撤退。実はその真意は「中国包囲網」にあるという。米軍撤退後に勢力を強めるタリバーン・IS・アルカイダなどのイスラム過激派勢力が定める狙いとは?米軍撤退を無責任と批判する中国の本音とは?今回も中東専門家の佐々木良昭さんに話を聞きました。
00:00 オープニング
01:02 なぜ米軍はアフガニスタンに駐留しているのか
05:04 なぜ撤退するのか
06:30 米軍が撤退したらアフガニスタン情勢はどうなるのか ←ここ見どころ!
09:16 米軍のアフガン撤退に対する中国の反応
11:52 撤退を決めたのは元々はトランプ大統領だった
13:03 米軍のアフガニスタン撤退が日本に与える影響
【ゲスト:佐々木良昭氏】
【インタビュアー:城取良太氏】
なぜアメリカはアフガニスタンに駐留しているのか?
城取
アメリカのバイデン大統領は2001年から西アジアのアフガニスタンに米軍を駐留させていたんですけども、その米軍を9月11日までに完全に撤退するという発表をしました。今回の米軍のアフガン撤退が中東情勢、国際情勢にどういう影響を与えていくのか、本日も中東の専門家である佐々木良昭さんをお迎えいたしましてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
アフガニスタンっていいますと歴史的に見てもイギリスとか、ソ連が南下してアフガニスタンを取りに来たりとか。で、今はアメリカが駐留しているわけですけども、世界の大国が入ってこようとしている重要な国だと思うんですけども、なぜ現在、アメリカはアフガニスタンに駐留しているのでしょうか?
佐々木
口実はニューヨークのビル爆破事件がありましたよね。それは、ビン・ラーディンなどのアルカイダの連中がハイジャックをしてやったと。そのアルカイダが根城にしているのがアフガニスタンだってことで、アフガニスタンを攻撃しようというのがそもそもの口実だったんですね。
アフガニスタンの戦略的重要性①宝石などの豊富な地下資源
佐々木
で、それ以降も実際に行ってみたらアフガニスタンが持っている戦略的な重要性っていうことがだんだんアメリカ政府にもわかってくるわけです。大体、中東とか西アジアっていうと地下資源があるって言うと石油かガスなんです。ところがこのアフガニスタンっていうのは石油もガスもないんですが、意外と、というかほとんど日本では知られていませんが、宝石があります。それからその中ではエメラルドがあるんですね。それからラピスラズリっていう。このライターの濃紺の部分がラピスラズリです。ラピスラズリも安物は白い濁点が入ってたりします。ところがワンランク上になると金のピースが入ってるんです。この石の中に。で、その次のは何も入っていない、このライターのように真っ青なんですね。
それからこのラピスラズリがあるところには、何でこういう色になるかって言うと、だいたい銅があるから。銅があるところっていうのは金があるんですね。金鉱脈があるんです。特にイランとアフガンって隣接してますけど、イランとその上のトルクメニスタンの国境の山岳地帯には大きな金鉱脈があるって言われてるんです。従って、隣のアフガニスタンには潜在的には金があると考えるべきですよね。
アフガニスタンの戦略的重要性②中央アジアの天然資源の輸送路
佐々木
それからもう一つアフガニスタンの重要性ってのは、ロケーションなんですよ。アフガニスタンを経由して中央アジアにある大量の石油・ガスをインド洋に持ち出すという。だからアメリカのユノカルっていう会社はここにパイプラインを通したことがあるんです。北から南にパキスタンを経由して。だから実はアフガニスタンが重要になってくる。
そしてそのユノカルっていうアメリカの会社はパイプラインを通そうと思ったんだけども、最初のうちはアフガニスタンでスーパースターになった「ムジャーヒディーン」、それからその次に出てきた「タリバーン」ですよね。タリバーンがコントロールしていた時はユノカルはタリバーン・ウェルカムだった。それでアメリカのマスコミは「タリバーンはいい奴らだ」「タリバーンは宗教者で真面目なイスラム教の連中だから麻薬の栽培を認めていない。これは応援すべきだ」と言っていました。でも何のことはない。ムジャーヒディーンもそうなんです。ムジャーヒディーンっていうのは、アメリカが武器や資金を与えて反ソ連として戦わせたんです。その次に出てきたタリバーンってのも「メイド・イン・USA」ですよ。アメリカが資金と武器を与えていた。で、その次に出てきたアルカイダもアメリカが資金と武器を与えてやっていた組織だった。その次に出てきたのが「イスラム国(IS)」ですよね。だから次から次からね、話題を変えるためにスタープレーヤーを変えてきたんです、アメリカは。ということはタリバーンにしろアルカイダにしろ将来、アメリカの必要があれば、そしてタリバーンやアルカイダが良しとするなら連係プレーが起こるってことですよ。
ムジャーヒディーン:ジハードに参加する民兵
タリバーン:反政府のイスラム過激派組織
ユノカル:アメリカの石油会社。現在は大手シェブロンと合併している
なぜアメリカはアフガニスタンから撤退するのか
城取
そんなアメリカが20年にわたり、国益とか必要性があって軍を駐留させてきたわけですよね。そのアメリカが何で今回撤退するのか、この辺に関して核心の部分っていうのは佐々木さんはどうお考えでしょうか?
現代の戦争の主流は「傭兵部隊」
佐々木
アメリカは戦い方を変えたんだと思うんです。非常に単純な言い方をすると、今の外国がやっている戦争で主要の戦闘集団ってのは「傭兵部隊」なんです。例えばトルコがリビアに派遣しているのは、トルコ兵よりも傭兵部隊の方が数が多いんです。それからロシアがやっぱりリビアに派兵しているのは「ワグナー」っていう傭兵部隊ですよ。それからシリアでトルコが考えたのは「自由シリア軍」ってのを作った。言ってみれば傭兵ですよ。それからアゼルバイジャンとアルメニアがこの前戦争をやりましたけども、あの時にトルコが支援で送り出したのは傭兵だった。同じように、アメリカ政府は自分の国民を犠牲にしないで成果を上げると。そのためには傭兵を使うのが一番利口だと。だから先頭集団の入れ替えが今回のケースですよ。
ワグナー:ロシアの民間軍事会社
自由シリア軍:反シリア政府武装勢力
米軍撤退後のアフガニスタン情勢はどうなる?
城取
一般的に見ると今、アメリカ軍がいるからこそアフガニスタンの治安が最低限守られているというように感じるんですけども、アメリカ軍が撤退してしまうとこれ、アフガニスタン情勢はどうなるんでしょうか?
米軍のアフガン撤退で一番困るのは「中国」
佐々木
今アフガニスタンで一番強いのはタリバーンだと思います。一旦は政権も作ったくらいですから。そのタリバーンが一番強いだろうし、米軍撤退後はそれが主導権を握っていくだろうと。だからアフガニスタンの内部抗争はそれほど激しくはならないだろうけども、その結果としてタリバーンなんかが力を持ってきたら不安になるのは中国ですよ。
中国ってのはご存知の通り「反イスラム」ですよね。新疆ウイグル自治区ってのはトルコ系のイスラム教徒なんです。そこに対して中国が大弾圧をしているということで最近、人道の問題があると世界の非難を中国は今受けているわけですよ。そこにタリバーンとかアルカイダとか、イスラム国(IS)だとかイスラム原理主義と言われるグループが多分、援軍を送るでしょうね。そうするともう中国は対応が非常に難しくなるでしょう。
城取
これ私も面白いなと思ったんですけど、アフガニスタンっていうのは中国と国境が接していないようで、微かに接してるんですよね。
佐々木
そうです。「ワハーン回廊」って言ってね。
城取
こちらがワハーン回廊の地図です。
イスラム武装勢力が、中国に弾圧されているウイグル人たちの援軍に
佐々木
だからそこを通ってタリバーンにしろアルカイダにしろ、イスラム国(IS)にしろ、その中国の中の一番危険なウイグルの連中の所に行けるし、それを通じて武器も渡せるし、金も渡せるし。っていうことになるわけですよ。そうすると中国がしばらく長い間やってきた一帯一路、陸の一帯一路が非常に難しくなる。
城取
なるほど。中東諸国はことごとく国としてはこのウイグル問題をあまり扱わないじゃないですか。トルコもエルドアン大統領は中国と上手くやりたいからこの問題に触れないですし、サウジアラビアは中国のウイグル弾圧を支持していますし、イスラム国(IS)とかタリバンとか原理主義的な組織、国家が中国に対してジハードを押し掛けるんじゃないかと。
実際にそうなんですよね。中国の人民日報が今回のバイデン大統領が決めた米軍のアフガニスタンからの撤退について「無責任だ」と。一般的に考えるとこの米中対立の中でアフガニスタンから米軍が抜けて力の空白ができると中国にとっては喜ばしいんじゃないかと思うと思うんですけども、反対の回答を中国の外交部がしているっていうのは非常に面白いなと思いましたね。
かつて、1979年のソ連によるアフガン侵攻の際には、新疆ウイグル地区のムスリムがアフガンのジハーディストとともに戦ったこともある
佐々木
もちろん中国はずっと前からアフガニスタンだけじゃなくて、アフガニスタンに自分の国の軍隊を送り込んでコントロールしようという意識があったでしょ。ところが今回のアメリカ軍の撤退によって何が起こったかというと、さっき言ったワハーン回廊とかそれ以外のルートを通じて、中国の一番デリケートな部分にイスラム原理主義が入ってくるんですよ。
城取
そうですよね。この中国のこの地図にあります、この国境を接しているのが新疆ウイグル自治区なんですよね。ここに入ってきちゃうってのが本当に怖いと…。
中央アジアの天然資源を虎視眈々と狙う中国
佐々木
そうです。それでワハーン回廊に接している隣国のタジク(タジキスタン)なんかは、「お前ら行くなら勝手に行っていいよ」ってことでしょ。それからタジクの北にあるキルギスも「どうぞ」って。何でかって言うと、逆な言い方をすると、中国は何とかして中央アジアの各国に浸透しようと思ってるんです。
例えば笑い話のような本当の話でね、カザフスタンっていうのは石油とガスがあるんですけど、中国政府はここを何とかして分捕りたいと。どうしたかというと、中国のハンサムボーイだけを集めてね、カザフスタンの若い女性に惚れさせて結婚させてカザフスタンの国籍を取らせようという作戦ですよ。
カザフスタンの石油・ガス、ウズベキスタンのガス、トルクメニスタンのガス、それからもっと向こうへ行くとアゼルバイジャンの石油・ガスっていうのがあるんですよ。それを全部中国から遠ざけるためにもこのアフガニスタンは「キー国家」になるんですよ。そうやって考えると「なるほどな」って。
それからもう一つは、これらの国々から出て来る地下資源を欧米に運ぶのはどこかというと、インド洋なんですよ。だって北から持って行ったらロシアのコントロール下でしょ。そしたらアメリカに何のメリットもないわけですよ。だから何とかして南に抜けさせてインド洋に運ぼうというのがアメリカの作戦ですよ。だから中国はアメリカ軍の撤退に対して「無責任じゃないか。これからどうなるんだ」と言ったわけですよ。それが本音でしょうね。
アフガン撤退はトランプ大統領が決めた政策
城取
これバイデン大統領、間違った判断ばかりしてるというように思ってたんですけど、珍しく正しい判断のように佐々木さんのお話を聞いていて思うんですけど、この撤退は元々決めたのはトランプ大統領ですよね?トランプ大統領は既に、2021年5月に撤兵するって言うのは在任中から言っていましたよね。
佐々木
アメリカのグローバルストラテジーなんてのは一人の大統領が決めるもんじゃないんですよ。もうシャドーガバメントがあって、アメリカの頭脳が集結したところが「さあ次やるか、何年かける?10年か、20年か、30年か、50年のタームでやっちゃうよ」っていう発想なわけでしょ。だから言ってみればちょっと出てきてコマーシャルやるようなもんですよ、バイデンが発言することとか、だから簡単に「バイデンは間違っているよ」って。それは誰が言っているかというと、CIAとか軍部とかね、シャドーガバメントの連中が「あのアホがまあいいや、言わせておけ」っていう感じですよ。
米軍のアフガン撤退が日本に与える影響
城取
では最後にお伺いしたいんですけど、アフガニスタンは日本から心理的にも物理的にも遠い場所にある国なんですけども、日本にとってアメリカ軍のアフガニスタン撤退っていうのはどういう影響を与えるのか?日本としてはどう考えるべきかっていうのを教えていただけますか。
「アフガン撤退」が中国の一帯一路の企みを封じ込める
佐々木
日本は冷静に、なぜアメリカが撤退と「言ったのか」ね。実施したのかじゃなくてね。なぜ言ったのかということを考えるべきだと思います。それからもう一つはね、ペルシャ湾から油が出てきて日本なんかにも来てるんだけども、それをペルシャ湾の出口でチェックしているのが中国なんですよ。中国がパキスタンに資金援助してグワダル港っていう港をほとんど買収しちゃったんです。そこを監視所にしてるんです。つまりアメリカの艦船だとか油の輸送船だとか日本に来る船を全部監視していて、必要がありなおかつタイミングが来れば中国はそれに対して攻撃をかけるということですよ。そういう意味ではもしアメリカが部分的に撤退したように見せかけて、タリバンとかISの勢力を強くすれば中国はとてもじゃないけどそんなことグワダルなんか手を出せなくなるんですよ。自分の方が忙しくなるから。
それからもう一つは、チャバハール港とかバンダレ・アッバース港というイランの港ですよ。インド洋に通じる。そこも中国が一生懸命金出して資金援助してるんですが、それもダメになるでしょうね。そういうことはつまり、一つは一帯一路の中国の作戦である陸路をこれによって、アフガンの問題によって遮断することができる。もう一つは海の一帯一路もこのことによって遮断することができるんです。日本にとってはものすごく重要なことです。
城取
アフガニスタン撤退って言うとアメリカからすると、戦略が後退しているって見られがちだと思うんですけど、日本人の感覚としてはそう見てしまうんですが、実はこれは戦略上前進であって引くことによってアフガニスタンのジハーディストたちの力をつけさせて、国境を接している中国に対しての力にすると。防波堤というか、現代のムジャヒディンを育てるような感じなんでしょうか?
佐々木
そうだと思います。それからね、今アメリカは海で中国を包囲してますよね。日本なんかを巻き込んで。今、それを止めたら中国は陸の方でより一層強くなります。それで海の方は当分黙っていようと。アメリカの好きなことやらせようと。だけどアメリカが陸と海の両方から中国を追い込むような形になれば 中国はもうギブアップするしかないでしょうね。
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