2021年初頭から、「スンニ派の盟主」と言われる中東の大国サウジアラビア王政に危機が迫っているという。親米国としてトランプ政権とは緊密な関係を築いてきたサウジアラビアだが、バイデン政権になって王政を窮地に追い込む国家機密情報が公開される可能性があるというのだ。今回のザ・ファクトでは、中東専門家の佐々木良昭氏に話を聞いた。

00:00 オープニング
00:29 サウジ王室を危機に晒す「カショギ氏殺害事件」
06:15 皇太子派と反皇太子派に割れるサウジ王室
08:16 サウジアラビアを他の近隣諸国はどうみているのか?
10:12 今後考えられるシナリオとは?

【ゲスト:佐々木良昭氏】

佐々木さん

佐々木良昭氏ホームページ「中東TODAY」

【インタビュアー:城取良太氏】

城取さん

YouTubeチャンネル:しろとり良太の「素顔の中東」

サウジアラビア王政に訪れている危機

2s

城取氏:
今日はトランプ政権と緊密な関係を築いてきたサウジアラビアについて佐々木良昭さんをお迎えしてお話をお聞きしたいと思います。よろしくお願い致します。佐々木良昭さんのホームページにサウジアラビアが非常に大きな危機を迎えてると。それがバイデン政権になると非常に大きくなるというような見させて頂いたんですけど、このお話についてお聞かせいただけますか?

中東TODAY

(佐々木氏のホームページ「中東TODAY」~来年サウジ王政は崩壊するか 2020年12月15日記事

キーワードは「カショギ氏殺害事件」

佐々木氏:
サウジアラビアにとって一番大きな事件というのは、「カショギ氏殺害事件」だと思うんです。カショギさんというのはサウジアラビア人でヨーロッパとかアメリカの雑誌マスコミ記事を書いている有名な人なんですけど、彼が殺されて誰が一体犯人なのかということが、今まであちこちで疑問視されていたんです。

城取氏:
「カショギ氏殺害事件」というのは2008年ですね。皆さん御記憶がある方もいらっしゃると思うんですけど、トルコにあるサウジアラビア総領事館で、サウジアラビア人で反体制派のジャーナリストだったカショギさんが殺されたと。この命令を出したのが、サウジアラビアのムハンマド皇太子なんじゃないかということなんですけど、これについてバイデン政権が「この情報を出すぞ」という流れになっているというのを佐々木さんのブログでも拝見したんですけど、これについて詳しく教えて頂いてよろしいでしょうか。

カショギ氏

(殺害されたカショギ氏)

Mbs

(殺害への関与が疑われているムハンマド皇太子)

トルコとアメリカは事件の全貌を知っている

佐々木氏:
その前に、トルコというのは情報機関が非常に発達した国なんですよ。従って、トルコにあったサウジアラビア領事館の中では、盗聴マイクが設置してあるのは当然であり、盗撮カメラが設置してあるのは当然だったんですよ。それから領事館の敷地の庭に向けてもマイクがついていたでしょうね。だから、あの中で起こったことは、全部トルコ政府は知ってたわけです。もちろんトルコ政府は一般公開はしませんよ。だって、これはとんでもない切り札になるわけですから。アメリカはアメリカで、トルコの情報機関が集めている秘密のマイクとかカメラから、全部情報を抜いていたんです。CIAがね。

トルコは把握している

城取氏:
アメリカは全部知っていたと…。

佐々木氏:
そうです。アメリカは全部知っていた。ところがアメリカもしたたかだから、サウジアラビアとの関係を考えたらこれは公開しない方がいいと。イランとの関係を考えたらサウジとの関係は大事にした方がいいという感じで、トランプ大統領はあんまり公にしなかった。それで明かされたのはCIAのレポート一枚だったと言われている。何百枚の資料のうちの一枚しか公表されなかったと言われている。

城取氏:
それがバイデン政権になって公になっていくということですね。

バイデン政権が「カショギ氏殺害」の報告書を公表すると言及

佐々木氏:
それは閣僚の発言からそうなってきたんだけれど。閣僚が個人の判断でそんなことができるわけがありません。国家の重要なテーマですから。つまり、バイデン大統領がこれは公にしていいよという許可を出したはずです。その公にしてもいいよという相手は誰だったかというと、ヘインズ情報長官です。つまり情報大臣ですね。彼女が一人の上院議員に質問を受けるわけです。「あなたはあれどうするの?ばらしてくれるの?我々に」と言うわけですよ。そうすると彼女は「全部公開しますよ」と言うわけですよ。そこからサウジアラビアの危機は始まってるわけですよ。

アブリル・ヘインズ

城取氏:
では、アメリカが公にしていくというわけで、非常にアメリカだじゃなくて国際社会に不利益な、サウジアラビアのサウド家にとって非常に不利益な情報が出てくるという流れになると。

佐々木氏:
カショギ氏を殺した軍団が、トルコに入るときに電動ノコギリを担いでいったというんですよ。死体をバラバラにするために。それを誰がOKしたかというと上の方の人だっていうんですよ。ところが、盗聴マイクから録ったんだろうけど、「旦那やっつけました」というわけですよ。「そうか、ご苦労さん」と言ったのはサウジアラビアの皇太子だったと。そうすると、サウジアラビア皇太子が殺人を計画し、それを命令し、実行させたということでしょ。ということは、殺人者よりも罪が重いわけですよ。そのことがサウジアラビアにとってとんでもないスキャンダルになっている。

城取氏:
これがサウジアラビア王政が転覆する危機に直結するという流れだと。

佐々木氏:
だから、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、カショギ氏殺害の実行犯のリーダーだとアメリカが発表するとサウジアラビアの国内では、皇太子派と反皇太子派がいるわけですよね。そうすると、そんな奴が皇太子やってるのはとんでもないとことだと反対派が勢いづくでしょうね。

サウジアラビア王家には皇太子派と反皇太子派がいる

城取氏:
なるほど。このサウジアラビアという名前自体が「サウド家のアラビア」ということで、非常にサウド家が力を持っていて、そのバックボーンにあるのが、サウジアラビアの無尽蔵に出てくる天然資源、まあ石油ですよね。この辺があるから強いグリップがあって、王室転覆までは行かないんじゃないかなってのが一般的に根強い見方かなと思うんですけど、結構佐々木さんによると、サウジアラビアの王室も一枚岩では全くないと。

城取さん1s

佐々木氏:
皇太子派と反皇太子派の二つにね、王家の内部が割れてる訳ですよ。そのまず最初に、世界中が知ってるのが、サウジアラビアの王家の人、それから財界の代表的な人260名ぐらいがリヤドのリッツカールトンホテルで拘束されたことがあるんですよ。これは皇太子のムハンマド・ビン・サルマンが命令してやったことなんですが、ムハンマド・ビン・サルマンは、彼らが反体制派である、あるいは政府に対して非従順であるということでやった訳ですが、その時に、サルマーンが言ったのは、「お前ら、罰金払え」と、「もしくは刑務所入る、どっち選ぶか」ということで、強引に金をむしり取るんですね。当然もうしょうがないからみんな、ありったけの金を出してね、で、その無罪にしてもらった訳ですよ。それで、今回のカショギ氏の殺人事件ということで、当然皇太子は批判を受けるでしょうね。国内外で、そうすると、それに悩んだサルマン国王が、高齢でもあるし、病弱でもあるからね、ショックで死ぬ可能性がある。もし国王が死ぬなんてことになったら、もう完全に次の王位継承権ムハンマド・ビン・サルマンの手から離れて、反対派の連中に行きますよ。だからその、闘争が今始まる一歩手前だと思いますよ。

サルマン国王

(サウジアラビアの現国王)

他の中東諸国はサウジアラビアをどう見ているのか

城取氏:
サウジアラビアというと、「スンニ派の盟主」というイメージが日本でも広がっていて、イスラム教の多数派のスンニ派のリーダーですよね。リーダー国家という形で、特に湾岸諸国、石油が出る、例えばUAEだったりとか、クウェートだったりとか、オマーンだったりとか、バーレーンとか、あの辺の国々のリーダーみたいな形で、サウジアラビアがなくなるのは困るっていうような、応援というような、支援というか、そういうものがあるように感じるんですけども、その辺の国々がサウジアラビアに対して実はどう思ってるっていうのは?

地図

エジプト

佐々木氏:
まず第一に、アラブの盟主って言われたのはエジプトですよ。ナセル大統領に始まる。ところが、ナセル大統領の後のサダド大統領がイスラエルとの和平を結ぶんですね。それでアラブ諸国は冗談じゃないってことで、エジプトをアラブ連盟のメンバー国から外しちゃう訳ですよ。で、その後で今度は、「いや、俺こそ盟主だ」って言い出したのがサウジアラビアだ。それは金にモノを言わせてやった訳ですね。ところが、サウジアラビアではイスラムの盟主と言うのは結構だけどね、サウジアラビアの領土の中にメッカもあれば、メジナもあると、二つの聖地がある訳で。で、「私はその二つの聖地を統治するものである」っていう言い方もした。ところがサウジアラビアにじゃあ イスラム学のセンターがあるのかと言えば、ないんですよ。イスラム学のセンターはイランのクム(Qum)、シーア派ね。それからエジプトのアズハル大学ですよ。そうすると、サウジはその面では何にもない。「あるのは金だけじゃないか」って…。だから、決して尊敬を受けていないんです。

エジプト・イスラエル平和条約

クウェート

佐々木氏:
それからサウジアラビアっていうのはね実はイラクの南部から出てきた部族なんですよ。ユダヤ人だって言われているんです。それがアラビア半島に入ってくるんだけども、争いに負けるんですよね。で、負けてどうしたかというとクウェートに逃げ込んで、クウェートの王家に守ってもらうんです。それでもう一度色々調整を付けて何とかなりそうだというので、クウェートから出て戦って王権を取るわけですよ。で、出て行って勝ったら昨日の恩を全部忘れて偉そうな顔をするわけですよ。そうするとクウェートからしたら「あの野郎、ふざけんな!」っていう思いがあるんです。アラブの「Gulf Cooperation Council」と言われている湾岸諸国会議の中でサウジが何かを提案すると、すぐ反対するのがクウェートだった。そういういきさつがあります。

アラブ首長国連邦(UAE)

佐々木氏:
さらに、サウジアラビアに対抗して、裕福なアラブ首長国連邦(UAE)の本心は「冗談じゃない」と思っています。なぜかというと、サウジアラビアに誘われてイエメン内戦問題に手を出したんだけども全然解決しないからです。それでこのイエメン問題がきっかけとなって、UAEはイランに接近し始めたんです。それを見てもサウジは何も言えません。つまり、「Gulf Cooperation Council」湾岸諸国会議の中で、大半の国は今はサウジから離れてるってことですよ。

湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)
中東・ペルシア湾岸地域における地域協力機構。現在、アラブ首長国連邦、バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビアの6か国が加盟している。

近隣諸国は

今後サウジアラビア王政はどうなるのか

城取氏:
これ今年、もしかしたら王政が転覆したりとか、近年、あの、国が変わっていくって流れにも、本当になりかねないと。

佐々木氏:
それは、王政が転覆するか、王権が変わるかね。つまり今の反皇太子派の連中が、王権を継ぐか。元々は反体制派の中に皇太子がいたんですよ。その皇太子を無理やり外して、サルマン国王は、あの、ムハンマドを皇太子にしたんです。で、おかしいじゃないかってみんな言ったけど、結局国王の力だからってみんな黙っちゃった。

ナーイフ

(ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の前の皇太子)

城取氏:
なるほど。これはまあ、かなり距離は遠いですけれど、日本もサウジアラビアからかなり天然資源の供給を受けてますんで、サウジアラビアの今の体制が変わる、どう変わっていくかっていうのは非常に日本にとっても、対岸の火事では済まされない、エネルギー安全保障上、非常に大きなテーマだと思いますので、今年2021年、しっかりこのサウジアラビアがどういう状況になるのかっていうのを、つぶさに見ていきたいという風に思いました。本当に今日は色々教えて頂いて有難うございました。

佐々木氏:
有難うございました。

(収録は1月22日)

米国家情報長官室が「カショギ氏殺害」報告書を公開

(※2月27日に追記しました)
2月26日、米国家情報長官室はムハンマド皇太子がカショギ氏殺害を「承認した」という報告書を公表しました。同時に米政府は制裁措置を発表しましたが、ムハンマド皇太子は対象とはされませんでした。

これを受けてサウジアラビア外務省は「報告書の内容は完全に拒絶すると反発した」と報じられています。

公表報告書

(公表された報告書)原文はこちら

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