連日、中国が台湾の防空識別圏に侵入し、軍事行動を強めている。この中国の動きに対し、4月16日に行われた日米首脳会談の共同声明で、52年ぶりに「台湾海峡の平和と安定」と、台湾について明記された。この共同文書によって台湾情勢はどう変わるのか?なぜ52年間も日米首脳の間で台湾が語られなかったのか?今回は、政治学者で元在沖縄海兵隊幹部のロバート・エルドリッヂ氏に話を聞いた。
00:00 日米首脳会談で「台湾」明記、エルドリッヂ氏の評価は?
03:39 なぜ52年間も日米首脳会談で「台湾」が語られなかったのか?
06:59 親密な米中関係はニクソン政権時代からの「国是」? ←ここ見どころ!
09:16 アメリカが台湾関係法を制定した背景
11:09 中国による台湾侵攻は本当に起こるのか?
16:14 東アジア安定のために日本がすべきこととは?
【ロバート・エルドリッヂ氏】
エルドリッヂ研究所代表。政治学博士。
1968年米国生まれ。
神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。
元在沖縄米海兵隊政務外交部次長。
東日本大震災の「トモダチ作戦」の立案者。
52年ぶりに日米首脳会談で「台湾」に言及
里村英一幸福実現党政調会長(以下、里村:)
4月16日、日米首脳会談の共同声明で台湾の安定について、52年ぶりに日本とアメリカの間で声明発表がされました。この首脳会談について、エルドリッヂさんどのように評価されておられますか?
エルドリッヂ氏
台湾について、外交上あるいは国際的に取り上げるのはすごく重要だと思ってます。その意味では、日米の首脳が台湾のことを公で話したことは評価したいと思ってますが、52年前と今日どう進展したのかが大きな課題だと思ってます。
今、中国がものすごく大きな存在になってしかも 明らかに軍事的な脅威になっている。日本にとって、アメリカにとって、もちろん台湾にとって。なぜ地政学的に台湾がそこまで重要であるかというと、台湾が第一列島線の真ん中にあるので、もし台湾が取られてしまったら、中国は第一列島線から突破ができるんです。そうすると東西南北の、例えばシーレーンの海峡の安全保障とか、そういった海の安全保障が全部中国の手によって取られてしまう。
日本は特に輸入に依存してる国ですので、日本の貿易がめちゃくちゃになります。そして、資源に頼っている日本の経済が非常に危なくなる。
台湾から北に行くとすぐ 南西諸島がある。沖縄が危なくなる。尖閣は 多分同時に取られてしまう。もし尖閣が取られてしまったら日米同盟が解消になりますので日本が完全に孤立してしまう。
逆に南の方に行こうとしたらフィリピンが危なくなる。南シナ海、東南アジア、最終的にインド太平洋地域も中国の覇権下に置かれるので、台湾が本当の意味では一番重要なところだということで、私は 日米首脳会談でその重要性が示された文章になってると思わない。つまり、日米首脳会談では「台湾海峡の平和と安全」の話をしてるんですけども、これがいかにインド太平洋地域にとって必要なのかという強いメッセージが、共同文書の中にあったとはちょっと思わない。
なぜ52年間も日米首脳会談で「台湾」が語られなかったのか?
里村
強いメッセージがあったとまでは言えないと。そこまでいくと 52年ぶり1969年のアメリカのニクソン大統領日本では佐藤栄作首相の間での以来ということなんですけど、逆に言うと 52年間なぜ今まで、大事な台湾という地政学上重要な場所にある国について今まで語られなかったのでしょうか?
ニクソン政権の親中路線
エルドリッヂ氏
ニクソン政権になってからやっぱり 中国のことをものすごく意識するようになって旧ソ連に対して中国を使おうということで。なので台湾を犠牲にしたことが一つ、残念ながら。あと台湾は歴史的には、李登輝総統が出る前までは民主主義国家でもない独裁ですので、世界の動きとちょっと逆だったのは多分国際社会からするとなかなか共感できない国だったと思うんですけれども、だけども 90年代から明らかに変わったので、国際社会の認識も変わるべきだと思う。さらに国民党政権から、より民主主義的になって、しかも台湾の方々のアイデンティティの約9割は、もう自分たちは台湾人。なので、いろんな意味での状況が変わっている。それなのに日米の間では、私から見れば十分な認識の共有をやってこなかったと思う。
安倍首相在任中が「日本版台湾関係法」制定の最大のチャンスだった
エルドリッヂ氏
その穴を埋めるために私は3年前に、アメリカの台湾関係法のようなものを日本でも日本版の台湾関係法を遅くて2019年の1月までに制定すべきということを政策提言として発表をしたんですけれども、特に安倍総理のときに、台湾関係法を作るべきだったんですけれども、やらなかったことは本当に残念だった。さらに トランプ大統領がいる間、蔡総統がいる間、安倍総理がいる間は、三者がこれからの台湾との付き合いというか日米台湾関係を形になるものをすべきだったんですけれども、チャンスをちょっと逃してしまった
里村
それをおっしゃると本当にそうですね。ある意味で、トランプ大統領・安倍首相・蔡英文さん。人としては、これ以上ないぐらいの今までの現状を変更させる役者が揃っていた最大のチャンスがちょっと逃げたかなって感じですよね。
もう一つはやっぱりそれぐらい当時のニクソン政権、はっきり言ってキッシンジャーさんの存在も大きくて、これがずっとある意味で約束事となってアメリカと日本を縛ってきたことになるんですかね?
「尖閣を中国にあげれば」と発言したキッシンジャー国務長官
エルドリッヂ氏
そうですね。キッシンジャーが日本のファンではないので。私は自著『尖閣問題の起源』の本にもちょっと書いてるんですけれど、1974年に国務省で、当時キッシンジャーが国務長官を務めていたんですけれども、南シナ海の南沙諸島の問題が勃発して、そこでキッシンジャーは、「中国が南シナ海で行動しないように尖閣諸島を中国にあげたら」ということを国務省の会議で述べたんです。そこで、彼の部下が「長官、本当にそう思ってるんですか?」と質問したんですが、キッシンジャーが「いやいや冗談です」と言いました。だけどキッシンジャーの発言が本当に冗談だったかどうかが分からないです。これは私の本の、脚注かどこかに書いてるので、是非、買って読んでください。私は キッシンジャーに取材の申込みをしたけども、残念ながら会ってくれないということだったんですけども、このアメリカの対中政策は、キッシンジャーというよりニクソンが前もって考えていました。でもその後、キッシンジャーはものすごく中国との関係をずっと大事にしてきたし、今でも中国に対して穏健な政策を一番しつこく言っています。
(エルドリッヂ氏の著書『尖閣問題の起源』)
国交断絶と同時に「台湾関係法」で同盟関係を維持したアメリカ
里村
私、尖閣諸島もそうですけど、当時のソ連という存在があっての冷戦の中で、アメリカとしては中国というカードをキープするためにも、さまざまなところで気を使わざる得なかった部分というのは、ある意味で時代の制約としてまだ分かるんですけれども、そういう中で非常にアメリカという国が賢いなと思ったのは、台湾もそうなんですけど、1979年1月1日の米中国交正常化に伴って、アメリカと台湾が国交を断交するときに、ちゃんと台湾関係法という法律を作りました。この辺私は、やっぱりアメリカの用意周到なところはすごいな、と思うんですけども。
台湾関係法:米中国交正常化に伴う米台断交後も台湾との同盟関係を維持するために制定された米国の国内法
台湾関係法を推進したのは大統領ではなく「アメリカ議会」
エルドリッヂ氏
アメリカがやったというよりアメリカの議会がやってしかも慌ててやったんです。1979年の2月から4月にかけて関係法を作ったんですけども、遡って、1月1日から有効にさせた。大統領府がやったというより議会があんまりにも怒ってて、カーター政権に対して怒ってて、法律を作ったんです。その意味では、日本の国会があんまりにも、あんまりにも、おとなしすぎる。だから官邸はできないかもしれないんですが、じゃあ議会は? 議会は何もしてない。
里村
ほんとにそうなんですよね。そういったエルドリッヂさんの提案を受けて日本人の台湾研究者からも、例えば台湾協力法とか、台湾基本法ですね。いろんなアイデアが出てるんだけどもなかなか政治は動かないです。と同時に、明らかにまたバイデン政権スタート後に、中国軍機が台湾の防空識別圏を侵して侵入するのが、明らかに一度に一日のうちに21機が入ったりとか、増えてます。この辺の中国のある意味で挑戦的というか、刺激的というか、この動きについてはどのようにご覧になってますか?つまり、何が聞きたいかというと、これは本当にやるつもりなのか?いよいよその一歩手前まで来てるのかどうか?その辺についてはいかがでしょうか。
「2020年から2030年の間が一番危ない時期」と警告していた元海軍大佐
エルドリッヂ氏
仰るとおり、もう準備はできつつある、あるいはもう完成していると思う。私の友人が、月刊『ザ・リバティ』とか、いろんなところに出ているんですけども、元海軍の大佐ジェームス・ファネルさん。彼はずっと前から、少なくとも10年前から「2020年~2030年の間は一番危ない時期だ」と指摘しています。
やっぱり中国の軍事能力と経済力がそこまで伸びていることと、あと「台湾を2020年までに制覇できる能力を確立しろ」という命令が出た。これはもう完成している。いつでも台湾を取れる状態です。さらに大佐の分析では、天安門事件が平成元年、北京オリンピックは2008年でこの間、約20年間、天安門事件から20年後に北京オリンピックが開かれた。このときに中国が国際社会に認められたことになるんです。次、中国にとって一番大きなものは2049年の中華人民共和国建国100周年です。そうすると逆計算したら19年間を逆計算したら、2030年までに行動しないといけない。だから台湾をいつでも盗れる2020年から19年間逆計算したら、2030年の間に中国は行動します。中国にとっていくら国際的な批判・非難があっても20年後に100周年に世界からの来賓を受け入れる時間が許される。
里村
そこなんですよね。日本の我々論者は、アメリカと中国の経済力だ軍事力だあるいは 台湾のそこでバランスで見がちなんですけど中国は 例えば国連加盟のときもそうでしたけど常に その他の国々を味方につけてっていうことをやりながら進んでいきましたですもんね。それでいうと、国際社会で承認されるところでいうと、天安門事件の20年後に北京オリンピック、来年2022年には今度、北京の冬季オリンピック・パラリンピックも行われると、どんどんやっぱり環境ができてるわけですよね。そこも一緒に見つつ進んでいかないと駄目になるわけですね。
エルドリッヂ氏
そうです。今、さまざまな偵察・軍事演習するのは、ここまでできているという脅迫でもあって、能力的にはもうできることを示している。それに対してアメリカはそこまで準備してない。自衛隊はあくまで自分の領土を守る。しかも盗られてから取り返すという間違った戦略をしているんですけれども、やっぱりこれが大きなメッセージになってる。
中国はありがたいことに、何をやるのかを前もって言ってくれるので、私たちが真剣に受け止めて対応するかしないかが私たちの課題です。
東アジアの平和を守るために日本がすべきこととは?
里村
なるほど。日本政府としては、しっかり受け止めなきゃいけないと思います。そこで最後の質問なんですけど、こういう状況の変化、あるいは日米首脳会談の結果を受けて、台湾をめぐる情勢は日々変わってきています。今後、日本はいかに台湾について行動すべきか。アメリカと組む、あるいは独自で、どんな動きをするべきだと思いますか?
エルドリッヂ氏
私から見れば二つ問題がある。一つは時間がない。今2021年。さっき私が申し上げた2030年までに中国が行動を起こすとしたら、少しずつやるのは遅すぎです。
里村
積み上げ方式とかですね。
エルドリッヂ氏
二つ目の問題は、(日本が台湾を直接守る行動をとる)基盤もないし、根拠がない。だから 台湾関係法・基本法そういったものが必要と思っています。
里村
台湾と、そういうような関係を決める法律がきちんとないといけないということですね。
エルドリッヂ氏
法律がなくてもやるべきだけれども、日本の場合は政治判断で何でもするので、政治家が判断しやすい環境を作るべきだと思う。だから、台湾関係法が絶対必要です。
里村
そこは本当に動かせないし、これからも、「台湾の安全は日本の安全でもあり、当然、世界の安全にもつながることである」という意識を持って、台湾関係法を作りに進むべきだと思います。今日は 貴重なご意見ありがとうございました。
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