日本政府が米海軍に提供しているが、現在は使用されていない尖閣諸島の射爆撃場。今年4月、この場所について「1978年に米政府が米軍に使用停止を指示していた」ことが機密解除された公文書で明らかになりました。
尖閣実効支配に関わるこの問題に、日本はどのように対応すべきなのか?ロバート・エルドリッヂ氏に話を聞きました。

00:00 オープニング
00:27 尖閣諸島の射撃場が使われなくなったのは何故?
07:05 今後、どのように活用すべきか
10:25 日米首脳会談では尖閣問題について何が話し合われたのか
13:16 射撃訓練場問題に関する中国への対応
15:40 日本が取るべき方策

11.20 eld

【ロバート・エルドリッヂ氏】
エルドリッヂ研究所代表。政治学博士。
1968年米国生まれ。
神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。
元在沖縄米海兵隊政務外交部次長。
東日本大震災の「トモダチ作戦」の立案者。

なぜ尖閣諸島の射撃場が使われなくなったのか?

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里村英一幸福実現党政調会長(以下、里村:)
かねてから尖閣諸島の射撃場が使われなくなったのは日本側の要請なのか、それともアメリカ側の要請なのかという意見の中で、エルドリッヂさんが前から論じられていて、この問題はアメリカ側からか日本側からか分からないと。これが4月の初めの共同通信の記事で、機密解除された公文書によると「アメリカ側からの要請で1978年から使用を控えるようになった」というのが明らかになったわけです。これはどういう意味持ってるんでしょうか?

エルドリッヂ氏:
問題は「なぜそういう決断したのか。あるいは、誰がどのようにしたのか」です。そこまで詳しく書いていないんですけど、記事には中国を意識して「日中問題、つまり尖閣諸島の領有権を巡る日中問題に米国は巻き込まれたくない」という結論だったようです。それが、誰がそう思ってるのか、なぜその結論に至ったのか、これから研究する必要があると思っています。

1978年の米公文書が、今の尖閣問題にも繋がっている

里村:
エルドリッヂさんがそこが重要だと指摘しているのは、結果的に1978年の「射撃場を使わない」というアメリカ側の判断。尖閣というのは、「日米安保条約第5条の適用範囲内だ」とかいろいろ話をしても、基本的にアメリカ政府のスタンスが変わってなければ、「日本と中国のぶつかりにアメリカは関与しないというスタンスを今もとり続ける」ということで繋がってくるんですよね。そういう意味では1978年の判断は重要だったということですね。

日米安保条約第5条・・・日本の施政下にある領域での日本と米国いずれか一方への武力攻撃に対し「共通の危険に対処するよう行動する」と定めた規定。

エルドリッヂ氏:

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そうですね。沖縄返還の時にアメリカは残念ながら、尖閣に関して日本の施政権は返還したんですけど、「領有権いわゆる主権は誰のものなのかは当事者の間で決めて下さい」という「中立政策」の立場をとりました。これ言い方は、曖昧政策とか中立政策とかいろいろあるんですけど。これは、私はいろんなところでその政策を批判しているんですけども。批判の理由はあとで触れてもいいんですけど、1978年というのは沖縄返還してから6年後のことですけれども、なぜ1978年なのかということですけども、日中平和友好条約締結の年でもあり、1978年の4月から尖閣巡る摩擦、緊迫感があった。例えば、いわゆる中国漁船100隻くらいが尖閣周辺に集まったり、日本の活動家が5月に尖閣上陸したりとか、8月に活動家が尖閣に灯台を作るとかで非常に緊張した時期でもあったんですけども、そのことで外務省が米軍に対して遠慮しろと言ったのは、確かかなと思ってたんですけど。アメリカが前からある「中立政策」をより鮮明にしたのは非常に気になっています。

里村:
普通はこういうことがあると「日本側から」と当然思っていたんですけど、ただやはり時代性を考えると、米ソ冷戦の真っただ中で1978年というのはソ連のアフガニスタン侵攻の前の年になりますよね。そうなりますと、もともと米中の接近というのが対ソ連というふうな戦略の中で行われたことを考えると、よりソ連の動きが活発化し、そして、アメリカはカーター政権という時に、ソ連を牽制するためにもアメリカとしては中国というカードを手離したくないという流れの中で、射撃場の使用を止めるという判断があったということ。そのような国際環境も関係するのでしょうかね。

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エルドリッヂ氏:
そうですね、仰る通り。当時カーター政権の国家安全保障補佐官がブレジェンスキーでした。東ヨーロッパ出身でポーランド出身でものすごく共産主義、旧ソ連に対して、強い反感のあった人です。だから、その意味ではとにかく中国と仲良くして巻き込むというのは、共和党も民主党も関係なく超党派的な政策だったんですけども。その一環として行ったことは十分考えられる。

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今後、尖閣射撃訓練場をどのように活用すべきか?

米軍は訓練場再開か自衛隊との共同使用か、もしくは管理権を日本に返還するべき

エルドリッヂ氏:
実は今から11年前、米軍、特に海兵隊と陸上自衛隊との間で、幕僚会議で、私は尖閣にある射撃訓練場を自衛隊が使うように要請すべきということを私は逆に提案していました。私の印象としては、自衛隊はそこに射撃訓練場があるということ自体もわからなかったようです。つまりそこまで使ってこなかったので、一世代、二世代が変わって、忘れられているという印象でした。私は当時求めたのは、⓵米軍が射撃訓練場として再開するのか、⓶自衛隊と共同で使うか、あるいは、⓷使わないなら日本側に管理権を完全に返すというものでした。そうすると、自衛隊が遠慮なく使えるようになります。自衛隊にとって、日本国内の訓練場がものすごく少ないので、あのような島を使えばやりたい放題です。

里村:
今、鹿児島県の馬毛島でそのような問題が起きてるから、遠慮なく使えるわけですもんね。そうすると、1978年から2021年の時の隔たりの中で、ソ連という問題がなくなったと。大きく国際情勢が変わってきて、そして、パワーバランスも変わってきて、中国も力を持つようになった。当然日本としては、アメリカと協議して、射撃場の使用に関してもやはり考え方を協議すべきだというわけなんですね。

尖閣諸島が日本の領土であるならば、遠慮なく射撃場を使用するべき

エルドリッヂ氏:
そうですね。そもそも主権国家として自分の領土内、少なくとも施政権下内の領土ないし訓練場を遠慮なく使えるはずですけど。日本あるいはアメリカはいつも中国を意識して遠慮している。今から9年前の2012年の秋ですけれどれも、沖縄県の入砂という島で、訓練場で、日本の民主党政権の時ですけど、上陸訓練、水陸両用作戦訓練を沖縄県内でやろうとした時に、日本の外務省がそれをとめた。それは中国を意識した。これは危険だなと思っていました。要するに、尖閣も本島に日本のものであれば遠慮なく使うべきだと私は思っています。

日米首脳会談では尖閣問題について何が話し合われたのか

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出典:首相官邸Facebook(https://www.facebook.com/
sourikantei/photos/3390933487673053)

尖閣の日米安保適用を毎回確認することは、日米間に信頼関係がないともいえる

里村:
その観点からすると、今回のバイデン新大統領、そして、日本から菅さんも初めて訪米で、実はそういう話し合うチャンスがあったと。尖閣射撃場まで含めて。そういうものについて、何ら話がなかったというのが今回の日米首脳会談。相変わらず日本の政界もマスコミも尖閣について、日米安保の範囲内であるというと「よかった!」ということになるけど、全く物足りないということになります。

エルドリッヂ氏:
そうですね。何について話し合ったのか本当の記録が出るまではわからない。しかも、それぞれの立場があって、解釈も若干変わるんですけど。それぞれの回覧記録はそれぞれが作成するので、日本の思いとアメリカ側の思いをそれぞれの資料が公開されない限りは、なにが本当に語られたのかわからないですけど。アメリカは積極的に資料公開する。先の共同通信の記事のように。日本は消極的に資料公開している。つまり、ほとんど資料公開してない。なので、日本は自信があればもっと積極的に資料公開すべきだと思っています。で、日米安保第5条の問題ですけど、今から50年前が沖縄返還協定が結ばれた年です。その秋にアメリカの議会において、安保条約が領有権を認めてない尖閣に対して適用しているかが議会で聞かれた。それが適用しているという証言があった。なので、特にこの25年間の間、首脳同士が会うたびにそれを確認することが、いかに日米同盟の間に信頼関係がないことを意味する。特に国際社会から見れば、日本はそこまでアメリカを信頼していないという意味になります。だから、それを私はやめてほしいといつも言っています。

尖閣問題を巡って日本が取るべき方策とは

里村:
非常に形だけの繋がりを作ってきたということで。この状態というのはやはり弱点になると思います。中国もそこを当然知っていてここを突っ込んできて、「そこは約束がないじゃないか」と入ってくる可能性があると思うんですが、それについてお考えをお伺いしたいんですけど。

エルドリッヂ氏:

以前にザ・ファクトでお話したと思うんですけど、第5条ほど簡単なものはない。グレーゾーンの問題が第5条より難しいんですけど、問題は大きな穴になっているものです。その穴というのは、中国がアメリカの尖閣に関する立場には大きな矛盾がある。中国がその矛盾を使って論破できる。どういう矛盾があるかというと、沖縄返還協定の時に米国は結局日本の領有権は認めていない。施政権は返したけど、領有権は冒頭で申しあげたように誰のものか当事者の間で決めて下さいという話だった。中国、台湾、日本の間で。であれば、中国は逆にもし中国軍が尖閣に派遣派兵された場合、アメリカが中国に対して何かのメッセージを発信したら、やめなさいとか。中国はアメリカに対して、日本の領有権を認めていないだけでなく、中国の主張は否定していない。領有権は認めていない、中国の主張は否定していない。要するに中国の主張が有効だということになります。

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里村:
今回、日米首脳会談は大成功だったように政府も言ってるんですけど、そういう意味では大きな落とし穴がまだまだあって、特に尖閣に対しては存在しているということで。日本はこれから言うべきこと、やるべきことがたくさんあるということになりますね。

エルドリッヂ氏:
そうですね。今はなにもないので、無策と呼んでいるんですけど。日本政府の無策、尖閣無策。とにかく口だけでなく行動で示さないと尖閣は獲られるのはほぼ確実。

里村:
今年は中国共産党100年の年ということで、やはりできることは全てやっていかなければいけないと思います。今日はエルドリッヂさんありがとうございました。

エルドリッヂ氏:
ありがとうございました。

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<シリーズ「尖閣諸島は日本の領土」>

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