2016年から国交断絶しているイランとサウジアラビア。宿敵とも言われている両国が現在、関係修復に向けて動き出している。中東で今、何が起きているのか。中東専門家の佐々木良昭氏にインタビューを行いました。

00:00 オープニング
00:35 イランとサウジアラビアに何が起きているのか
02:23 なぜイラクが仲介しているのか
04:00 中国の影響はあるのか
06:33 「カショギ事件」との関係性は?
07:33 イランとサウジアラビアは今後どのように関係構築するのか
09:49 サウジ王族の体制内革命の可能性

【ゲスト:佐々木良昭氏】

佐々木さん

佐々木良昭氏ホームページ「中東TODAY」

【インタビュアー:城取良太氏】

城取さん

YouTubeチャンネル:しろとり良太の「素顔の中東」

なぜ、国交断絶中のサウジアラビアとイランが急接近しているのか?

城取
単刀直入にお伺いします。このサウジアラビアとイランが関係を修復するって中々、考えづらい、中東のこと調べていると考えづらいんですけど、今、何が起こっているんでしょうか?

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ムハンマド皇太子とアメリカの関係が悪化

佐々木
サウジアラビアは今、アメリカから大分冷たくされているんですよ。例えば、ムハンマド・ビン・サルマンっていう皇太子がアメリカのバイデンと話せなくなっちゃってる。アメリカは「そんな奴よりも、サルマン国王と直接話すから」ってなってるわけですよ。イランはというと、アメリカと険悪な関係なわけですよね。ところがそのイランとサウジが、言ってみれば同じ敵であるアメリカを持っているにも関わらず上手くいかないわけですよ。それは何でかというとサウジアラビアにとって脅威的な存在であるイエメンのホウシっていうグループがあるんです。ホウシ族っていう。これが相当強烈になってきて、サウジの軍事基地だとか石油基地だとかに攻撃を加えているんですね。そこに対してドローンとかミサイルを送っているのはイランなんですよ。何とかここでイランのホウシに対するサポートを抑え込んで、穏やかな状態にしたいと思っているのがサウジの本音ですよ。

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ホウシ(フーシ):サウジアラビアの南に位置するイエメン北部を拠点に活動するシーア派の武装組織

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城取
なるほど。長年これイエメンの内戦っていうのが、サウジアラビアが政府軍ですよね。政府側をサポートして、イラン側が反政府のホウシをサポートして、代理戦争をずっとやり続けていたということで…。

佐々木
これを終わらせたいというのがサウジの思惑でしょうね。ただ、イランはそう簡単には「はい、どうも」と言わないんですよ。

イラクが仲介役に

城取
早速今回の関係修復における話し合いが2回目があるんじゃないかと言われているんですけども、1回目は4月9日にイラクのバグダットで行われたと。何でバグダットで行われたのかというと、イラクが仲介しているということなんですけども。イラクってのはどうしてこの両国の間に入ってきているんでしょうか?

佐々木
イラクってのはサッダーム・フセイン大統領の時代にはスンニ派の権力構造だったんですよ。ところがバグダットでサッダーム政権が倒れた後はシーア派がイラクの中で65%以上のマジョリティになったんですよ。当然のことながら新生イラクの首相・閣僚の多くは実はシーア派になったんです。シーア派の総本山はイランのクムに置いているわけです。イランで最高権威のアーヤトッラーと認められてね、アーヤトッラーというのは宗教的に大変に偉大なリーダーとしてイラクでも崇められるわけですよ。そうすると当然イランの意向を聞いてやると。もう一つイランは革命防衛隊というハメネイ師の直結の部隊が軍隊や武器を送ってくれるわけですよ。そうすると非常に強いものになるので、イラクの首相はイランの意向を聞くと。同時にイラクはアラブの国であるからサウジとの関係もあったんですね。よって例外的に仲介できるのがイラクだったんです。

アーヤトッラー:イスラム教シーア派の12イマーム派の中で最上級の指導者に与えられる称号。アラーの徴(しるし)の意。

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中国の王毅外相が中東6か国を訪問

城取
一つ気がかりなのが4月9日っていう日付がですね、その一週間前、二週間前に非常に中東地域に大きな出来事があったのが、中国の王毅外相が中東6か国を回って、中国にとっては全部オセロをひっくり返していくような、アメリカから中国にひっくり返すような、ある意味見事な外交をしたと思うんですけども、この中国の影響は、あり得ないイランとサウジアラビアの関係修復の裏の仲介があったとは考えられますか?

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王毅外相が訪問した中東6カ国

「ワクチン外交」で中東に浸透を図る中国

佐々木
中国がイラクに対して言うカードもあるし、中国がサウジに対して言うカードもある。何が中国のカードかというと「コロナ」ですよ。サウジアラビアなんてのはね、何百万人の出稼ぎ労働者を抱えてるんですよ。彼らもコロナにかかる、彼らがコロナにかかればサウジにそれが伝染る。そうすると安い薬でもいいからとにかく外国人の労働者にばら撒かないといけないと。ではどこの薬が一番安いかというと中国なわけですよ。で、中国は「いいよ、薬売ってやるよ」って、「一部は寄付してやってもいいよ」っていうようなことをサウジに行って言い、イラクに行って言い、エジプトに行って言い、トルコに行って言い、イランにも言ってる。それが「コロナ外交」ですよ。

城取
そうですね。「ワクチン外交」ですね。UAE(アラブ首長国連邦)でも中国の国営企業であるシノファームの生産拠点ができるってことで。

佐々木
だからUAEなんかも外国人労働者にね、そりゃファイザーのような高い薬をいちいちくれてやれないですよ。彼らは金がないからじゃない、「そんなバカバカしいことやれるか」って発想なんですよ。だからもう二束三文の薬でいいからとりあえずそれをやっとこうと。

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城取
では直接的に今回のイランとサウジアラビアの関係修復に中国が携わっているかという点についてはどうでしょうか?

佐々木
それは有り得るとは思うけども、断定はできないですね。ただサウジがイラクに対して、「イランとの関係、何とかならないか」と言った可能性はありますよ。イランはイランで、「そんないい話があったら繋いでいいぞ」って、イラクはイラクで両方に恩が売れるわけですから。

アメリカとサウジアラビアの関係を悪化させた「カショギ氏殺害事件」

城取
前回、佐々木さんにこの番組でサウジアラビアのサウド王室が危機的状況にあるという趣旨で番組を作りましたけども、「カショギ事件」ですよね。有名な事件で、反体制派ジャーナリストのカショギ氏を、ムハンマド皇太子が暗殺したんじゃないかっていう噂が出ていましたが、それでバイデン政権がその証拠を出したということで急速にアメリカとサウジアラビアの関係がムハンマド皇太子との関係が悪化していると。これがイランとサウジアラビアを近づけているっていうのは改めて、どんな感じなんでしょうか?

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バイデン大統領の中東政策でサウジアラビア王政崩壊の危機!?【ザ・ファクト「新・よくわかる中東問題」】

サムネイル②

佐々木
「敵の敵は味方」ですよ。我々は今、アメリカとあんまり関係は良くない。イランもアメリカと関係は良くない。そうしたら我々は対アメリカで何らかの協力関係ができるんじゃないか。それは直接であれ、間接であれ。というのがイランとサウジアラビアの双方の考えでしょうね。

イランとサウジアラビアの関係修復は今後も続くのか?

城取
今回の関係修復は2回目3回目と続いていくような雰囲気があるんですけど、今後イランとサウジアラビアが将来にわたって本格的に関係修復をしていくと考えた時に、どういう関係になっていくのでしょうか?

佐々木
当然、一旦ドアが開かれた以上はそれが公式であれ非公式であれ、継続的にコンタクトが取られるでしょう。ただ、そうやって言って大きな成果が生まれるかどうかというのは、その国の国内事情によるでしょう。例えば今一番懸念されるのは、サウジアラビアで体制内クーデターが起こったらどうなるのかといったら、それまでにずっと積み上げてきた秘密のイランとの交渉が一気に瓦解しちゃうでしょ。イラン側でもハメネイ師が頑張っているけど、もしハメネイ師が亡くなった場合、革命防衛隊は今後もあの国の中で大きな権力を握っていられるかというと、クエスチョンマークでしょう。もっと言えばイランの大使が立ち上がって、革命防衛隊に対して、あるいは今のイスラム体制に対して大反対のデモをやるでしょう。そうしたらやっぱり台無しになるでしょう。だからサウジアラビアも危険なカードを持ってるし、イランも危険なカードを持っている。 ただこの接近は双方にとってプラスだという認識はイランにもサウジにもあるわけですから、そうするとこれは公式・非公式に続くでしょうね。例えばそれと似たようなケースではね、サウジアラビアがアラブ首長国連邦とかバーレーンだとかがイスラエルとの外交関係を開いたんですよね。何でサウジはやらないのって言っているわけですよ、他のアラブ諸国は。サウジは「イスラムの盟主としての代表としての立場があるからそんなことできません」って言っているわけです。だけど実際にはムハンマド皇太子がしょっちゅうイスラエルへ行ったり、イスラエルの人を呼んで会議をやってるわけでしょ。でも公式には「そんなことありません」って言ってとぼけているわけですよ。だからそれはイランとサウジの間では同じでしょうね。

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サウジアラビアで体制内クーデーターの可能性?

城取
先ほど話に出ましたけども、「サウジの体制内革命」っていう形でサウジアラビアの中で王族のクーデターが起きる可能性もシナリオとしてはありますでしょうか?

ヨルダンで起きた体制内クーデター未遂

佐々木
私はそれは十分あると思います。たぶんそんなこと言ったのは私だけでしょうね。他の人は「あいつはアホじゃないか」と思うかも知らんけど。実は伝染病みたいなもんですよ。ある国でそういう動きが出ると隣の国でも、その隣の国でもやっちゃう。例えば何で私がそれを感じたかと言うと、ヨルダンで国王に対する体制内クーデターが起こったんです。仕掛けたやつが義理の兄弟だった。異母兄弟ですけどね。偉い賢いヨルダンの国王は許したわけですよ。一応監禁状態にあるけれども、罰則はそれ以上やらなかった。そうするとね、サウジの今の皇太子に反発している、かつてムハンマド皇太子によってリッツ・カールトンホテルに監禁された王族の連中がみんな「ヨルダンだってやってんじゃないか」、「あそこは預言者ムハンマドの末裔だけど、それでもやった」と。「だったら俺たちだってやっていいんじゃないか」ということになるわけですよ。そもそもヨルダンでクーデター失敗したのは、「あいつら作戦が甘いからだ」って。「俺たちは綿密にやったら成功する」ってね。大体アラブ人ってのは自分が一番偉いと思ってるからそういう風に考えるわけですよ。そうすると体制内革命がサウジアラビアで起きることは十分考えられる。それに対しては、もう一つのファクターはアメリカがそれについてどう思うか、っていうことなんですよ。これはみんなそうです。イランもそうだし、トルコもエジプトも、ヨルダンもそうなんです。そうすると反ムハンマド皇太子っていう宮廷内革命やろうと思ったら、アメリカはどうするだろうかと。すると「アメリカは最近、ムハンマド皇太子に対して冷たい」と。「それだったらチャンスじゃないか」ということになるわけですよ。

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城取
では前回佐々木さんからお聞きした、クーデターというか体制内革命というのは十分に可能性としてはあると。

名家ラシード家の姫がサウジ王室を批判

佐々木
それからサウジアラビアの王家・政府が出来上がったのは、実はサウド家ともう一つワハビー・グループだった。ワハビーってのはイスラム原理主義のグループです。そこが、王家に「俺の方は宗教をやるから、あんたのとこは政治をやってくれ」という風に権限を分割したんですよ。ワハビー派は宗教、サウド家は政治という風にね。ところがだんだん長い時間経過していくとサウド王家の方が宗教の圏域にまで入ってくるわけです。そうするとあの王権を確立した時の一方の勇者であるところのワハビーはマイノリティの立場になっていったんです。その不満たるやもう大変なもんですよ。そもそもサウド家というのはイラクから流れてきた流れ者ですよ。本来あの土地に何の主権もないはずなんです。それがワハビーと組んだためにできたわけですよ。それからもう一つはですね、あの辺で昔からある名家の「ラシドゥーン(ラシード家)」って言うんだけど、ラシドゥーンの連中もサウド家に徹底的にぶっ潰されて、今は散り散りバラバラになってる。散り散りバラバラになったとは言いながら、ラシドゥーンのファミリーはサウジアラビアの周辺の国にいるわけでしょ。面白いことについ一か月ほど前、イギリスにいるラシドゥーンの姫がサウド王家に対して批難を言い始めているんですよ。もちろん彼女だって唐突にそんなこと言いませんよ。誰かがスポンサーになっているから、後ろ盾があるからですよ。その後ろ盾というのは、大英帝国かはたまたアメリカですよ。つまりアメリカが、 イギリス、多分アメリカでしょうね。アメリカはそろそろ一悶着起こしてもいいと考えているということでしょうね。

ワハビー(ワッハーブ派):アラビア半島で18世紀に興ったイスラム改革運動で純粋主義・復古主義の傾向をもつイスラム原理主義
ラシドゥーン(ラシード家):古くからアラビア半島に存在する名家。20世紀にサウード家によって滅ぼされた

城取
今日はサウジアラビアとイランの謎の急接近から始まって、中国・アメリカが中東の二大大国にどう関与しているのかっていうところから、サウジアラビアのクーデターの可能性まで幅広くお聞きすることが出来てありがとうございました。

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城取良太氏 ザ・ファクト執筆記事

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