ロシアのウクライナ侵攻の裏で、かつての親米国サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が中露に急接近しているという。サウジアラビアは対中原油輸出決済を一部人民元建てにする意向を表明。さらにサウジ・UAE両国はバイデン大統領の電話会談を拒否して、プーチン大統領と会談を行うなど、アラブ諸国に異変が起きている。今回のザ・ファクトは中東専門家の佐々木良昭氏にウクライナ情勢で変化する中東情勢について話を聞いた。

00:00 オープニング
01:13 サウジアラビアが対中原油輸出決済を人民元建てに!?
04:24 サウジ・UAEがバイデン大統領との会談を拒否してプーチン大統領と会談
07:59 間隙を突いて中東での存在感を増す中国
10:15 中国はイスラエルを取り込もうとしている
11:38 中東産油国は日本をどのように見ているのか?

【ゲスト:佐々木良昭氏】

佐々木さん

佐々木良昭氏ホームページ「中東TODAY」

【インタビュアー:城取良太氏】

城取さん

YouTubeチャンネル:しろとり良太の「素顔の中東」

Still0513_00002

なぜサウジアラビアは対中原油輸出決済を人民元に変えたのか

城取
今、世界はロシアのウクライナ侵攻に完全に目を奪われていますけれども、中東では中国だったりロシアだったりが新たな動き、そして潮目の変化がこの両国によって起きようとしています。実際今、日本はエネルギー危機が深まっていますが、今回のテーマは日本の未だかつてないエネルギー危機に直結する問題として皆さんに見ていただきたいなと思います。今回は、その辺の状況を詳しくお聞きするべく、佐々木良昭さんにお越しいただきました。よろしくお願い致します。

佐々木
よろしくお願いします。

城取
大きなその潮目の変化の一つがこの前ウォールストリートジャーナルでも報じられましたけれども、サウジアラビアが中国に輸出する石油の決済通貨を、基軸通貨のドルから人民元に変えたと言われてます。取引の全部ではなく一部だと言われていて、今まだ話し合いの最中にあるようなのですけれども、この決断の背景にあるものとはなんでしょうか。

佐々木
アメリカのバイデン政権があまりにも不明確というか脆弱な決定をして、それで世界をリードしようと思っていることに対する言い訳でしょうね。アフガニスタンでも突然撤退したり今度のウクライナでもサポートすると言って「お前ら戦争しろ」と言って「軍隊は送らないよ」「NATOにも入れないよ」って感じでしょ。アメリカの政府は非常に明日どうしてくるか分からない対応する傾向が強くなってきたということです。そうすると「もうアメリカに頼ってたらどうしようもない。こんなことやってたら我々がアウトになっちゃうよ」というのが、私はアラブの本音だと思いますよ。

城取
サウジアラビアで言ったら、イエメンの戦いの中でアメリカもそこに賛成しなかったっていうところも不満の一つとしてあると言われていますが。

Still0513_00000

佐々木
賛成しないというよりは、アメリカの武器がイエメンのホウシ派のミサイルとかがドローンに対応できないんです。だからサウジアラビアの軍事基地とか石油施設とかは、あっちもこっちも被害を受けているんです。UAE(アラブ首長国連邦)も同じです。そうなると我々はアメリカの高い武器を大量に買ってきたけどそうすることを続けるのが正解なのか、あるいはロシアならロシアに切り替えて他のところから買ったほうがいいのかということを考えていると思いますよ。

城取
あとサウジアラビアと敵対関係にあって長年のライバルというか、イランの核合意に関してアメリカが徐々に譲歩しつつあるところも不満の一つであると言われていますよね。

佐々木
アメリカに言わせればロシアから油が出なくなったら、アメリカはそれをカバーできないわけですよ。サウジアラビアとかUAEから出る石油も増産しろっていうけど、「高く売れるんだから嫌だよ」「そんな量増やせなくてもいいや」というのがサウジアラビアなどのスタンスだと思います。そうなってくると、あと頼める大口の産油国はイランしかないんですよ。だからアメリカは、急にイランにスマイルで譲歩していくわけですよ。ところがそれは、シーア派とスンニ派で対抗し合ってるサウジアラビア、イランの関係ではサウジアラビアは絶対面白くないですよ。

なぜ親米国だったサウジアラビアとUAEはアメリカの電話会談は断りロシアには応じたのか

城取
中国とサウジアラビアの取り決めが出た前の話なんですけども、3月9日の段階でウクライナ戦争が始まって、アメリカ政府がエネルギーの原油の供給に関してサウジアラビアとUAEに電話会談を申し出たんですが、両国から断られたというのが報じられていました。その後なんとこの両国の首脳はロシアのプーチン大統領と電話会談に応じて話しているということなんですけど、これが象徴してるサウジアラビアとUAEというのはトランプ政権では、親米国の筆頭でもあったのが、なぜ変わったのでしょうか。

Still0513_00003

佐々木
アメリカのような大国の大統領は、一挙手一投足の大きな影響を国際政治に与えるって事ですよ。それをバイデンはわかってないんですよ。だから軽々にものを言ったり行動したりすると「これじゃついていけないよ」とサウジアラビアであったりUAEは思うんですよ。だから例えば、サウジアラビアなんかは、中国に関しては「油を人民元で売ったっていいじゃないか、他の国はドルだとしても」という感じになるわけです。そうすると、アメリカのドルは国際的な信用を落とすわけですよ。
同時にロシアとの距離だって同じですよね。ロシアを巻き込んでOPECをより強い政治的な決定を下せる組織にしようというのがサウジアラビアのスタンスだと思います。

Still0513_00004

OPEC〈石油輸出国機構〉:国際石油資本から産油国の利益を守るために設立された組織。中東・アフリカ諸国を中心に13カ国が加盟している。

城取
今お話しいただいたOPEC(石油輸出国機構)は、国際石油資本、石油メジャーに対して、この石油産出国が利益を守るためにできたというのがそもそもの目的であるんですが、ここに今ロシアは正式には加わっていないと。非加盟国で通称OPEC+でロシアが入っているということになっているんですけども、この非加盟だったロシアを今なぜ踏み込んでサウジアラビアやUAEとか、そういった国々は正式メンバーに入れようとしているのか。この辺にはどういう背景があるのでしょうか。

佐々木
OPECができたのは、私はアメリカの構想だと思うんですよ。だけどもそうは言わずに産油国がそれをみんなで考えて決めたんだというと体裁がいいため「あなたが主役よ」と言ったわけです。実際にそれをやったけど、OPECがなんら決定力を持ってなかったんです。例えば価格設定だとか産出量だとかいうことを、OPEC各国が自分らで決めたかというとそれでもないんですよ。
それはなぜかというと、国際政治に与える政治的影響力がなかったからです。そこでサウジアラビアなんかは「ここにロシアが入ってくれたらもうちょっと政治力が強くなるから我々はアメリカの意向を離れた決定を下すことができるんじゃないか」と考えたと思うんです。それが今回の目的だと思いますよ。

中国が行う中東との関係を深める手法とは

城取
一方でアメリカの国内でウォルター・ラッセル・ミードさんという教授がいらっしゃって、この方もメディアに寄稿してたんですけれども、「アメリカを、石油が豊富だけども地政学的に不安定なこの中東という国に押さえておくことで、エネルギー資源が大量に必要な中国に対して、エネルギー供給の遮断という人質にとれた」と指摘しています。この辺、今逆に中国にイニシアティブ(主導権)を握られようとしていると思うんですが、中国が中東と関係を深めていく手法というのはなんでしょうか。

Still0513_00001

佐々木
例えば、中国というのはやっぱりプロパガンダ国家ですよね。一帯一路。もう東のアジアから西のアジアまでを一本の道路や海上交通で繋ぐんだと。それで「あんたも我々の仲間だよ」って言われると「そんな壮大な計画に俺らも入れてくれるのか」と悪い気はしないわけですよ。

城取
なるほど。今実際にイスラエルも港湾の開発だったりとかイスラエルのハイテク企業が中国(ウイグル)の監視社会で技術として使われたりとかですね。イスラエルなんて親米国の象徴みたいな国が中国とかなりディープな関係を結んでますし、UAEでもこの前、港湾に秘密の軍事基地、中国の秘密軍事基地が造られてアメリカの介入で止まったとかですね、なんか色々きな臭い怪しい関係がこの1年ぐらいで出てきているので、これは大きな潮目が変わっているということでしょうか。

佐々木
そう思います。中国の中にイスラエルを作ってしまおうという考え方もあるわけですね。もともと日本が満州国あたりに作ろうと思ってたんですよね。それで同じように、あれだけ広大な中国なんだからあそこにイスラエル一つぐらい作ってやったっていいじゃないかとか、あるいはイスラエルは中東の中にあって危険が増していったときに逃げ場を作っておかなきゃいけないなど、中国とはそういうことを前提にして良い関係を維持していこうというのは充分にあるでしょうね。

Still0517_00000

城取
今、そういった流れでアメリカが価値判断をしっかりしていないように中東からは見えていて、それに比べれば中国とかロシアとの良好な関係がアメリカとの関係を補完するのに必要だと考えている中東諸国があると思います。これはやっぱりウクライナ問題の裏でどんどん進んでいるように見えますよね。

佐々木
今回のウクライナ問題でアメリカのガサツな対応が露見しちゃったわけですよ。アラブから見たら、「そんな雑なことやってるのか。じゃあちょっと信用できないよな」となったと思うんです。

中東の産油国は日本をどう見ているのか

城取
ここで日本のことにも触れていきたいと思います。3月17日に岸田首相がサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談して、ウクライナの支援と原油価格の安定化を要請しました。しかしムハンマド皇太子からは、OPECプラス(OPEC加盟13カ国とロシア)との協定維持が強調されました。これは要するに長年の大口顧客である日本にとってはサウジアラビアから肩透かしを食らったようにも見えるんですけれども、サウジアラビアを始めとする中東の産油国は日本をどういうふうに見ているのでしょうか。

Still0517_00000

佐々木
私は肩透かしだとは思いません。アラブだけじゃなくて、世界中で日本ほど親切な対応してくる国はどこもないですよ。だから逆に言うとそのOPECにロシアを巻き込むということでサウジアラビアが考えていることは、アメリカに対しては非常に強烈なカードなんですよね。NOっていうカードですよ。それは日本に向けたものじゃないですよ。もう一つは、日本は確かに石油の輸入量は漸減してますけど、やがて日本は、石油ではないエネルギーソースを開発する国だろうと産油国が思ってますよ。
だいぶ前の話、サウジアラビアで小泉さんが「もう石油いらなくなるよ」って言ったんですよ。そしたら水素燃料だとか太陽光パネルだとか風力発電とか、いろんなものが出てきたわけです。だからやがて日本はそうしていくだろうと。そうすると逆に「我々が売れる石油は量が減っていってもいいから、なるべく長く長持ちさせたい」というのが産油国の本音じゃないですかね。

Still0513_00006

城取
再生可能エネルギーも確かに技術は進歩してきてますが、やっぱり実用ラインに乗る採算が取れるのかっていう心配があって、長期的には確かに新エネとか新しい資源っていうのは開発可能だと思うんですが、今現在の危機として何か起こったときに日本は対応できる状況にはありません。ロシアも含めて中東も自分たちの外貨の一番の商品である、原油を売らないってことはないと思うんですけど、これに量を制限するとか価格をつり上げるとかって言った場合に日本の経済はやっぱり直撃するのかなというふうに思います。全く輸出されなくなるというのは考え難いけれども、日本経済を破壊する大きな力になるそれが、中国やロシアの意図でコントロールされるというシナリオもありえるのかなと思うんですけども。

佐々木
だからそこで核開発、原発反対を段階的に進めていくという大人の判断をしないとダメだと思うんですよ。おっしゃる通り、石油が無くなったら、残るのは原発だけですよ。だからそれを一気に壊しちゃうとか無くすなんてことは、やっぱり考えるべきじゃない。もっと大人の判断をすることべきだと思います。

Still0513_00005

城取
そうですね。だから日本は新しいエネルギーの可能性を見出しながらも、今やっぱりしっかり原因を確保する体制を外交的にも作るべきですよね。だから西側諸国にべったりくっついて中露を接近させるのではなく、日本はロシアとも独自外交すべきだと思います。あと国内のエネルギー政策でいえば原発再稼働いうのをしっかりやらざるを得ないのかなと考えています。

佐々木
ほんとそうですよ。そうじゃなければ、気がついたらなんの方法もないじゃないっていうのでは話にならない。それは政治の担い手のやることじゃないですよ。

城取
そうですね。
今日もいろいろ脱線しながらも中東の視点から今後の見通しをお話いただきまして本当にありがとうございました。

ウクライナ問題:関連動画

欧米中心の報道ではわからない「ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心」

サムネイル2

国会演説直前!ゼレンスキー大統領の苦悩…日本政府が今すべきこととは

サムネイル のコピー

ウクライナ関連書籍


『ゼレンスキー大統領の苦悩と中国の野望』大川隆法著

ゼレンスキ―

『ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心』大川隆法著

『ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心』

こちらもご覧ください!

宿敵サウジとイランが急接近!中東で暗躍する中国の影【新・よくわかる中東問題】

新よくわかる中東問題サムネイル(サウジとイラン)03

バイデン大統領の中東政策でサウジアラビア王政崩壊の危機!?【ザ・ファクト「新・よくわかる中東問題」】

サムネイル②

中東はヨーロッパ任せ!?バイデン政権下で迎える中東問題の転換点【ザ・ファクト新・よくわかる中東問題】

サムネイル

アラブの春は成功だったのか?エジプト・チュニジア・シリアの“その後”【ザ・ファクト「新・よくわかる中東問題」】

サムネイル02

「イスラム国」はアメリカによってつくられた?よくわかる中東問題(2)

イスラム国はアメリカによってつくられた

イスラム国(IS)とは何か?よくわかる中東問題(1)

2014070108132957111