ロシアのウクライナ侵攻が始まってから混沌とする世界情勢。欧米とそれに追随する日本などは早々とロシアへの制裁を決めたが、ロシアと近しい関係にあると言われている中国が未だに動きを潜めている。なぜ中国は具体的な動きを見せないのか?そこには中国の、ロシア以上に深いウクライナとの蜜月関係があるという。ウクライナと中国の、軍事的・経済的なつながりとは・・・。中国専門家の澁谷司氏に聞いた。
00:00 ウクライナ侵攻の仲介に名乗り出ない中国の本心とは?
02:25 実は親密な関係のウクライナと中国
04:02 中国人民解放軍の近代化に貢献したウクライナ
05:00 ゼレンスキ―大統領は中国の主要な投資先のウクライナに侵攻するとは思っていなかった?
06:02 中国とロシアは報道されているような蜜月関係ではない
06:42 ウクライナの欧州接近は西側諸国と中国の共通の利益
08:17 ウクライナ侵攻の陰で勢いを増す金正恩の意図とは?
11:05 感情論に流される政治家・マスコミ
12:31 国防と感情論は切り離して考えるべき
15:55 ネオナチの実態など負の部分が全く報じられないのは不公平
【出演】
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長/目白大学大学院講師)
里村英一(幸福実現党政調会長)
澁谷 司(しぶや・つかさ)氏
1953年生まれ
アジア太平洋交流学会会長。目白大学大学院講師。元拓殖大学海外事情研究所教授。
ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)のビジティング・プロフェッサー。
東京外国語大学中国語学科卒業後、中国・台湾など、
東アジア国際関係論の専門家として活躍している。
ウクライナ侵攻の仲介役として出てこない中国の狙いとは
里村
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから混沌とする世界情勢なのですが、その中でザ・ファクトのほうにもいろいろとご質問いただいています。「中国の動きがいまいちよく分からない」ということで、今日は中国を中心に北朝鮮も含めて、ウクライナ紛争と絡めたところの東アジアの動きについて、東アジアの政治に詳しい澁谷先生に話をお伺いします。澁谷先生、今回もよろしくお願いします。
澁谷
こちらこそよろしくお願いします。
里村
ロシアによるウクライナの侵攻が始まってから割とすぐに習近平が仲介役を買って出るなど、いろいろ出ましたが、今のところそういう動きは見えません。中国は今何をやっているのでしょうか。
澁谷
中国は、ウクライナとの関係も大事にしたい、それからロシアとの関係も当然のことながら大事にしたい。そういうジレンマの中で考え込んで、そして何もできない状況にあります。もし、その仲介役をやってうまく行けばいいですが、失敗したならば両方の国から叩かれる可能性あります。それと同時に欧米から、これまた非難を浴びる可能性があり、やっぱり火中の栗は拾いたくない感じでしょうかね。
ウクライナと中国の親密な関係
里村
日本のメディアでは本当に、今澁谷さんがおっしゃった部分が報道されません。言葉は悪いですが、病院が攻撃されたとか、情緒的なシーンを流すばかりで、日本のメディアを見ていて私たち国民が、どのように今回のウクライナ紛争を判断すべきか。特に日本にとって何が学べるのかが全く出てこないです。ということで、このウクライナと中国の関係についてお聞かせいただけますでしょうか。
澁谷
まずウクライナと中国の関係は、1989年の天安門事件以降から非常に近くなったと言われております。そして、1991年ソ連邦が崩壊します。その時に天安門事件の影響で中国はロシアからも援助を受けられない、欧米からも当然のことながら援助を受けられない。ところがウクライナは、武器の輸出先や、それから軍事技術の提供先を中国に求めたわけです。中国も当然欲しかったわけで、両国はかなり深い付き合いになったということです。一番有名なのは、「ヴァリャーグ」というウクライナの空母を、香港の実業家で人民解放軍の方が、ウクライナから空母を買い、それを直し建造して「遼寧」という空母第一号を作ったというような経緯があります。
里村
ウクライナから購入したんですもんね。
澁谷
なぜウクライナだったかは、私も最近までよく分からなかったのですが、中国とウクライナの関係を調べていくうちに非常によく分かってきました。
里村
話に聞くところだと、人民解放軍の近代化を助け育てたのも、またウクライナだという話がありますよね。
澁谷
そうですね。あくまでもそれは軍事技術、武器などですが兵を育てるわけではなく、近代装備にする意味ではかなりウクライナが貢献していると思います。
中露関係を見誤ったゼレンスキー
里村
1990年代の天安門事件以降、世界の流れを見ると中国も四面楚歌。そしてソ連崩壊ということで、ウクライナもロシアもまだ建国したばかりではあるが、元々ウクライナはソ連の核兵器を持っている、ある意味での軍事大国だったと考えると中国がウクライナに接近したのも分かりますね。
澁谷
当然ウクライナとしては、できればロシア間の紛争も中国に仲介役をやってもらいたかったんです。それだけではなく、ウクライナには、そもそも中国が巨額の投資をしていて、その上中国企業がウクライナにもあることなどから、「ロシアによる侵攻はない」とウクライナは軽く考えていたようです。
里村
ロシアが、それに対して自然と配慮してくるだろうと考えていたんですね。
澁谷
それはゼレンスキー大統領たちが見誤ったというか少し考え方が甘かったと思います。要するに中露がそれほど仲良くなかったことをやはり読み切っていなかったのでしょうね。
報道されているような関係でない中国とロシア
里村
これは私たち日本人が、メディアの報道を通じて誤解しているのですが、一方的にロシアと中国は蜜月関係なのだと。その観点から物事をいつも見ているのですが、それだけでなく、中国はウクライナにも足をかけているということですね。
澁谷
中国が進めようとしている一帯一路の構想でウクライナは東欧における要の国なんです。ですので割と早くから中国との関係を大事にしてウクライナが手を挙げ一帯一路に入ることになったわけです。そして貿易に関して言えば、ウクライナから中国はたくさんの穀物を買っていて、中でもトウモロコシがかなりウクライナから中国に入っていると言われていますので食料や武器等の輸出入関係が非常に大きいです。特に中国は、穀物と武器をウクライナからたくさん購入しています。
里村
一帯一路の玄関になったら、ウクライナがEUあるいはNATO諸国などに接近していること自体は中国にとっても、プラスになるという判断もあるわけで、ロシアのように、それは困るものではないですもんね。
澁谷
はい。
里村
そこでやはりロシアの利益と中国の利益が対立するわけですね。
澁谷
先ほど里村先生もおっしゃっていたように、中露関係は非常に微妙で複雑で、表面的には準軍事同盟に見えますが、実際にはお互いに何を考えているかが分からない腹の探り合いをしている感じですよね。
里村
この中露関係を北朝鮮と中国のような血の同盟のように思ったら大間違いということですね。
澁谷
おっしゃる通りですね。
ウクライナ侵攻の裏でチャンスを伺っている北朝鮮
里村
そういう観点を私たちは国際政治を見る上でしっかりと持ち続けないといけないと思います。
そしてもう一つ、東アジアを見た時にある意味でウクライナ紛争が始まってから非常に元気を出している北朝鮮の金正恩委員長なのですが、こちらも幸福の科学大川隆法総裁の緊急発刊で「金正恩守護霊霊言」というものが出ました。この中で金正恩委員長の守護霊は日本の弱さ、脆弱さについて話しています。日本というか、ザ・ファクトとして前から心配していたのが、ロシア・北朝鮮・中国さらにイラン、こうしたところの連携ができてくるのが一番日本にとっては悲劇的だと。実際、今回の北朝鮮のミサイルもかなり強力なものを作ってきたようですが、この辺も北朝鮮についてどのようにご覧になっていますか。
澁谷
今回いわゆるICBMでありますけれども1万5000キロの遠くまで飛ばせる、つまりワシントンまで届くようなミサイルを作ったことで、今のバイデン政権がウクライナに対して、大したことできないだろうと。ましてやNATO軍や米軍をウクライナには送らないと言っていますので「鬼の居ぬ間に」じゃないですけれども、北朝鮮としては動くチャンスであると見てワシントンまで届くICBMも完成させたんじゃないでしょうかね。
感情論で動く日本の政治家・マスコミ
里村
ただ一方で「本当に日本という国は脆弱な体制である」と金正恩の守護霊が言いました。私もそう思います。本来なら冷静に、ロシア・中国・ウクライナも含めた力関係で、日本の安全をどう守るべきかをしっかりと議論し、決定しなきゃいけない政治家、あるいは議論するための材料を提供するメディアがとにかく感情論で動いています。そして単純に「プーチンが悪玉」、「ゼレンスキーが善玉」という主張。視聴者はそれでもいいと思うのですが、やはり政治家、メディアはそれでは駄目でもう少し別なことを取り上げて議論すべきだと思うのですが、全然それがない。ウクライナという国を世界中が応援したように見えますが、軍事支援していた国はゼロです。今回私は改めて、「基本的に日本も同じように危ないんだぞ」と思いました。このようなものを見て、その上で何も議論が進まない、核シェアリングに関しても議論ができない日本を、中国は嘲笑って見ているのではないかとそんな目で少し見ています。その辺りはいかがでしょうか。
澁谷
そうだと思います。北朝鮮に対しても何もできない。それから、ロシアがもう一度北海道を攻めるなどの可能性だってあるわけですから、その辺のところは私たちも注意して見ていかなきゃいけないのだろうなと思っております。ですから単に今おっしゃられたようにプーチンは悪でゼレンスキーは正義だという単純な議論で終わらせてはいけないと思うんですよね。ですから我々としてはロシアのウクライナ侵攻を一つの他山の石として、「もしかすると日本にもロシアが攻め込む可能性があるんだぞ」とここで学んでおくべきじゃないかと思います。
感情の問題と日本を守るための気持ちは切り離すべき
里村
ある意味で日本は先の戦争で最後にそういう不測の事態に直面して降伏したわけです。そういう経験のある日本として、ロシアと中国を 一緒にさせたら絶対に駄目だと。私も知り合いの友人の親族のシベリアへ抑留されたおじさんの体験もちょっと聞いたことあるんです。感情論で言ったら北方領土問題、シベリア抑留、あるいは先の戦争の最後の火事場泥棒みたいな、はっきり言って好きではない。しかし過去に関しての感情の問題と未来の日本の安全を考えるのは切り離さないといけません。その辺がまだまだ混然と一体としてしまう中に、日本の議論が進まない大きな理由があるのかなと。私は政治家の責任もあるし、やはりメディアの責任が一番大きいと思います。
澁谷
おっしゃる通りですね。ロシア側から見たウクライナについてはほとんど語られていないから、やはり日本のメディアもその辺りを考えてないといけないと思うんです。今、ロシアとウクライナの間で停戦の話し合いが行われてまして、いわゆるウクライナの中立化が基本的に語られていますが、ロシアとしてはウクライナがNATOに入らずに中立化してくれれば、一つ安全保障という意味ではロシア側も いいということで、ぜひともその辺りから話し合い、そして何とか合意にこぎつけたらいいなと個人的には思っております。
ウクライナの問題点を報道しないのは不公平
里村
私も全く同感でございます。やはり今回いろいろあったがミンスク合意を翻意した、あるいは反故にした、あるいはNATOへの接近、ある意味でロシアにとっての国家的な生命線に触れたとウクライナ側がトリガーを引いた分がある。これを日本の朝日新聞は、はっきりと悪い独裁者による 「侵略戦争」という位置づけでコラムなどに書いていますが、私はそういう見方ですることは、はっきり危険だと思うんです。つまり国が残るのに、そうやって常に生命線を確保しながらというのは、どの国もやっている。特にヨーロッパのように地続きであるとはっきりします。それに比べて「どっかに悪い奴が突然出てきて、それが侵略戦争をするんだ」 「日本の憲法9条があるから大丈夫なんだ。平和を愛する国に、平気で日本の平和を委ねることにしました」みたいな憲法前文のこういうところが、「悪い侵略者が現れて突然侵略戦争やっているんだ」という見方になるということに非常に繋がって、「私は安易だな」と思うんですよ。
澁谷
プーチン大統領としてはアゾフという例のネオナチが結構ウクライナで大暴れしていることについて日本のメディアがほとんど取り上げないのはおかしいと感じていると思うんですよね。ですから、欧米メディアを日本のメディアはほとんど追随しているので、確かにロシアにも非がある部分は大いにあるのですが、ウクライナにおいてもいろいろ問題点があるのに、そこを全く言わないのはおかしいと思います。
里村
本当にそうですよね。私が聞いた話でもロシア系住民を占める地域で「ロシア系住民には公務員になる権利がない」、それから「正規の雇用という立場になる権利がない」、つまり非正規雇用。とんでもないアンフェアな状態が続いていると。こういう部分は全然流れませんもんね。日本のメディアで、やっぱりちょっとこれおかしいなと私は思います。こういう部分、引き続きロシアもそうですが、ウクライナそして中国・北朝鮮を含めて、ザ・ファクトとしてはしっかりとウォッチしていきたいと思います。今後もまた澁谷先生のお知恵を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。今日はありがとうございました。
澁谷
こちらこそありがとうございました。
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