「米国2016最新事情」第3回目は、
発言・暴言が毎日のように全米メディアで
取り上げられている大統領候補者の一人、
ドナルド・トランプ氏はなぜここまで注目されるのか。

トランプ_公式サイト用

去年、全米のテレビ・ラジオ番組に70本出演した
及川幸久さん(幸福実現党外務局長)が、
トランプ人気の秘密に迫る。

(第1回目はこちら)
「アメリカの歴史認識」――いま、アメリカ人の考え方が変わりつつある。米国2016最新事情①

(第2回目はこちら)
オバマ政権が「アメリカの自信」を失わせた? 米国2016最新事情②

連日、全米メディアが取り上げるトランプ発言

及川里村

里村 もう一つのテーマである
ドナルド・トランプ氏の、
はっきり言って異常とも言える人気。
人気というと怒る方もいらっしゃるかも
しれないけど、まあすごい扱われ方。
これはどういうことか、お伺いしたいんですが。
まず、やっぱりすごいわけですか?トランプ熱は。

及川 まずは、共和党の候補なので、
共和党の支持者の間では一応今のところ
40%以上の支持ですね。
アメリカの有権者全体でいうと25%ぐらい。
かなりの支持ではありますね。
(2015年12月24日時点)
実際にアメリカのメディアでの大統領選報道の、
ほぼすべてがドナルド・トランプ関係です。

里村 毎日のようにトランプ氏の言動が
採り上げてられていますが、
やはり現地ではすごいわけですか。

及川 要するに、トランプがいわゆる暴言や失言を
しまくっているわけですよね。
これはニュースネタなので、メディアはそれが
おもしろくてしょうがないという感じで、
それをガンガン採り上げているわけですよ。
テレビもラジオもトランプのインタビューを
取りたくてしょうがない。
1個インタビューを取ると、それをものすごく
大切そうに使っていますね。
視聴率が取れるからですよ。
だからトランプの現象を作っているのは、
ある意味ではメディアだと言えます。

里村 メディアはどこの国も、
失言や暴言はたしかに歓迎するんだけど、
不思議と失言すればするほど、
逆に支持が上がっているんですね。
いったい何なんでしょうか。
かつてオバマ大統領は「Change」と言っていました。
逆に言うと「Change」以外、何の印象もないですが。
トランプもそういうことを言っているんですか。

及川 メディアは、トランプが言っている暴言、
例えば、メキシコからやってくる不法移民は
皆レイピスト(強姦魔)だとか、
犯罪者しかいないとか。
日本に対しても結構言っているし、
中国に対しても言っている。
韓国なんか何もしないんだから、
もう韓国にいる米軍なんか引き上げろとか。
最近はイスラム教徒に対して、
もうイスラム教徒はアメリカに入れるなと、
こういう暴言を吐いていて、
マスコミもそれを採り上げている。

里村 なるほど。

白人のフラストレーションがトランプ人気の秘密?

及川 でもマスコミが採り上げれば採り上げるほど、
トランプが注目されて、
トランプを支持する人が増えている。
その支持している層は一体誰か。
これは、まずアメリカの白人です。
いま、白人は、アメリカの中で
だんだんマイノリティー化しているわけですよ。
黒人はもともと多かったけど、
さらにヒスパニックというのが増えてきた。
アジア系も増えてきた。
そうすると、元々、中心にいた白人というのは、
だんだんちょっと立場が悪くなってきています。

さらには今、アメリカの景気はよくなっていると、
利上げもされて景気がよくなっていると
言われていますけど、
実際にはごくわずかの富裕層だけがよくなっていて、
白人の大多数を占める中間層以下は、
決して景気はよくなっていないわけですよ。

里村 失業率が下がったと
日本で報道されているけど、
実際は中堅層はそんなによくなっていない、と。

及川 全然よくなっていないわけですよ。
その彼らの不満感や怒りを代表しているのが
ドナルド・トランプです。
だから、やはり敵は不法移民のヒスパニックであり、
中国や日本という海外の勢力であり、
そしてオバマなんですよ。
最近はイスラム教徒も敵に回している。
だから、そういうのに対して不満を持っている、
現状に対して不満を持っている白人層にとっては、
これほどいい存在はいないんです。

里村 日本でいうと、上手に敵をつくることで
自分の支持を高めていく、
そういうことに非常に長けた方がいらっしゃる。
小泉純一郎元首相もそうだったし、
この間市長を辞めた橋下前大阪市長もそうでした。

「アメリカをもう一度偉大に」

及川 そのとおりですね。

里村 これは書籍ですか。

及川 はい。トランプの書いた
『Crippled America』という本です。
Crippled America
Crippled America: How to Make America Great Again
Donald J. Trump

及川 Clippledというのは「機能不全になった」という
意味ですね。
だから、訳すと「機能不全になったアメリカ」。
サブタイトルが「How to Make America Great Again」。
「どうやってアメリカをもう一度、
偉大な国にするか」。
アメリカをGreatにしようと言って
大統領になったのは、ロナルド・レーガンです。

里村 そうなんですよね。私は、レーガン大統領って
すごく印象がよかったりするんです。
そのレーガンの前がカーターさんだった。
レーガンはソ連を悪の帝国と決めつけたが、
カーターさんはどちらかというと、
当時、「デタント」という言葉をよく使ったけど、
友愛のほうでいったんですよね。
それに対してアメリカ人の不満が高まってきて、
一気にレーガン人気に火が付いて。
意外と大統領になったら、
いい仕事をしたじゃないかと。

及川 元俳優がね。
里村そう。しかもハリウッドの二流三流俳優と
言われた方がですよ。
だから、そういう意味では、今のオバマ大統領的な
立場にあったのが、カーター大統領。
カーター大統領は、20世紀のアメリカの大統領の
中でもかなり評価が低い。

及川 まさにカーターによく似たオバマ大統領が
「アメリカはもう世界の警察官ではない」
「世界の警察官から降りる」と言ったわけですね。
それに対して、トランプが言っているのは、
「いや、アメリカはもう一度、
世界の警察官になるべきだ」ということを
言っているわけです。

里村 その言葉自体は別に
非難されるべきじゃないですね。
ある意味で「普通の国」になってしまったアメリカ。
それに対する不満、あるいは
フラストレーションを持っているアメリカ国民が、
トランプ人気に拍車をかけている、と。

及川 そうなりますね。

既成の権威に疑問を投げかけるアメリカ国民

及川 それと私がもう一つ、おもしろいと思うのは、
やはり今のアメリカ国民というのが
既存の権威というものを疑い始めている。
例えば、政党だとか二大政党という共和党、民主党。
それから議会、そしてマスメディア。
こういうものの言っていることを、
もう信じなくなってきている。
だから、マスコミがトランプを叩けば叩くほど、
トランプの人気は上がる。
マスコミの言うことを信じていないわけですよ。
今、共和党の幹部は皆、トランプの暴言を見て
「大統領にはふさわしくない。
共和党の候補にはふさわしくない」と
言っているわけです。
言えば言うほど、共和党の支持者は
どんどんトランプ支持に回っているわけです。

里村 もしそれを意図して、
まさにアメリカ国民の中にある政府、政党、
あるいはマスコミに対する不満を
マーケティング的に捉えて、
マーケティングで「こういう発言をしたほうが、
むしろ支持は上がる」というふうに
仕掛けている人がいるとしたら、すごいですね。

及川 すごいですね。
でも、すでにもう前々回の
オバマが出てきた時の大統領選挙の頃から、
もう二大政党の時代は終わるんじゃないか
という声が、結構アメリカの中でも出ていて。
もう共和党も民主党も信じられないという
国民の勢力、要するに、無党派というのが
ものすごく増えていたんですよね。
それが今、もうすごい流れになっているので、
そこは見事についている。

プーチンをほめ、オバマをけなすトランプ

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里村 プーチン大統領もトランプ氏を
すごく褒めている。

及川 それは、プーチンがトランプのことを言う前に、
トランプのほうがプーチンを褒めたんですよ。
今のアメリカでプーチンを褒める政治家なんか、
いないですよ。
もう共和党も民主党も両方とも、
プーチンは現代のヒトラーだと言っていますから。
でも、そういう中でトランプは、
いま、世界で本当のリーダーはプーチンしかいないと
言っている。

里村 逆張り。

及川 そうです。
で、「オバマはリーダーじゃない」と。

里村 政策的にはどうですか。
偉大なアメリカの復活はわかるんだけど。

及川 不法移民のことや移民政策とか、
いろいろなことで批判を受けていますが、
その影に隠れた、彼がこの本で語っている彼の政策は、
例えば税率を下げる。
今、法人税35%のアメリカの法人税を
15%に下げるとか、個人の所得税、
アメリカの富裕層の所得税も25%に下げるとか。
税金を下げることを言っています。
税金を下げたほうが、むしろその分、
景気がよくなって財政はもっとよくなるよと。
典型的な小さな政府ですよ。それを言っている。

里村 レーガノミクスに…

及川 戻ります。
それから、オバマ政権がずっとやってきた
国防費、軍事費の削減。
こんなのはとんでもないと。
もう一回軍事費を上げるべきだということを
言っています。

「トランプ大統領」は日本にとってどんな存在か?

里村 その政策でみた時に、
今、トランプが大統領になったら日本にはメリットがあるのか。

及川 これはどうでしょうかね。
基本的にこの人は、日本語的な言い方をすると
大統領選挙のネタであって、
いずれ消えていくだろうとずっと言われてきて。
でも消えていくどころか、どんどん上がっていって
いるわけです。
今週、オバマ大統領がついに共和党の一候補に
過ぎないトランプに対して、批判をし始めました。
現職の大統領が、まだ共和党の候補は
決まっていないのにトランプを名指しで批判し始めた。
これはなぜかというと、このままで言ったら
トランプは本当に共和党の候補になってしまうかもしれない。
共和党の候補になってしまったら、
もしかしたら本戦でヒラリー・クリントンに
勝ってしまうかもしれない、という雰囲気が
出てきているんですよ。
だからオバマも危機感を持ってきたのでしょう。

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及川 でも、日本にとって、もしかしたらいいかも
しれないのは、日本がなかなか優柔不断で
決めかねているところを、
アメリカ的に言うとケツを蹴飛ばしてくれる
ということをやってくれるかもしれないので、
日本にとって、いいところもあるかもしれません。
例えば、今年日本で安倍政権がやった安保法制が
大変なことになりましたね。
このことをトランプ自身は、どこかの集会で
言っていました。
日米安保の偏った片務性ということですね。
「アメリカは日本に何かあったら守りに行くけど、
アメリカに何かあっても日本は守らないんですよ。
皆さん、知ってますか。こんなのおかしいでしょう」
と言っているんです。
でもこれは、言ってもらったほうが
いいんじゃないですか。

里村 アメリカで割と過激というか、
「強いアメリカ」のほうを強調する大統領が
出たときって、結構日米関係はいいんですよね。
レーガン大統領と中曽根総理、
それからブッシュ大統領と小泉純一郎さん。
いずれも非常に蜜月時代と言われた。

及川 まだわからないですけど、
もしかしたらこの人が大統領になったら、
必ず日本には同じような自由主義の流れは
くると思いますね。

里村 あまり危険な風潮とか、
もちろんそれは戦争大好きみたいな、
そういうものは好ましくないかもしれないけど、
自由という方向で考えると、
私たち日本人ももうちょっと考えなきゃいけない
ポイントはありますね。
つまり、我々は選挙でもって自由とか、
そんなこと考えませんから。

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及川 この人がこの本でも強調しているのは、
自分はビジネスマンである、政治家ではないと。
だけど、政治家はそもそも問題解決できるんですかと。
いわゆる政治的な技術はいっぱい持っていても、
目の前の問題を解決できないじゃないかと。
自分は実業家として、問題を解決してきた。
そういう意味でいうと、共和党でも民主党でも
ないんですよね。

里村 アメリカは、景気がよくなった時も、
財務大臣は皆、実業家ですもんね。
職業政治家じゃないですもんね。

及川 そういう流れというのが、
もしかしたら日本でも起きるかもしれません。

では、「ヒラリー大統領」なら?

里村 ヒラリーはどうなんでしょうか。

及川 ヒラリーさんの評価はなかなか難しいと、
私も思っているんです。
第1期オバマ政権時代に国務長官として
動かれた動き方の中では、中国に対しての強硬姿勢、
そして日米同盟を重視する姿勢。
ヒラリーさんは百数十カ国に言ったと
言われていますが、一番最初に国務大臣として
訪問した国は日本でした。
日米同盟の大切さを、過去のどの国務大臣よりも
わかっていた人だとは思います。
ただ、これが大統領になったらどうなるかと
いうのはわからない。

里村 一方、中国のほうからもいろいろと
結構資金がヒラリーさんの陣営に流れていたとか、
中国関係も結構親密でしたからね。

及川 今でいうとまだまだヒラリーが
大統領になる可能性が一番高いとは思うんですけど、
日本としてはヒラリーが大統領になった時に、
どういう形で日米同盟を進めていくかというのは
考えておかないといけないですね。

里村 むしろ、難しいですね。

及川 難しいと思いますよ。

里村 かえってね、トランプ氏よりも、ある意味で。

及川 やはり政治家なので。
政治家というのは日本でもアメリカでも
そうですけど、その時によってスタンスを
どんどん変えるわけですよ。
だからヒラリーさんも、いつのまにか
TPP反対になっていますしね。

(第4回につづく)

(第1回目はこちら)
「アメリカの歴史認識」――いま、アメリカ人の考え方が変わりつつある。米国2016最新事情①

(第2回目はこちら)
オバマ政権が「アメリカの自信」を失わせた? 米国2016最新事情②