「イスラム国」による日本人人質事件は、湯川さんに続いて後藤さんが殺害されるというかたちで最悪の結末を迎えました。今回、幸福の科学出版より『イスラム国“カリフ”バグダディ氏に直撃スピリチュアル・インタビュー』『スピリチュアル・エキスパートによる徹底検証 「イスラム国」日本人人質事件の真相に迫る』が緊急発刊されたことを受け、改めて日本人人質事件を検証し、今後どうすればこのような悲劇を防ぐことができるのかについて考えます。

世界のメディアが注目した今回の日本人人質事件

自己責任なのか?それとも……

今、今回の人質事件が「自己責任なのかどうか」という問題がマスコミで論点になっています。自民党の高村正彦副総裁も言っていましたが、「個人の自己責任では済まないところがある」と思います。今後、有志連合の空爆が激しくなり、多くのイラクの民間人が犠牲になるでしょう。後藤さんは「何があっても自分の責任である」と語っていましたが、個人責任だけではすまないところがあるのです。ヨルダンのパイロットも殺されていたことが明らかになり、ものすごい勢いで憎悪の炎が広がっています。今回の日本人人質事件は、個人の責任を超えて、世界規模で事態が展開していると言えるでしょう。

安倍首相に事件の責任はあるのか

もう一点、「日本政府の対応は正しかったのか」という点が、国会で問題になっています。安倍首相が「イスラム国」周辺の国に対して支援表明をしたことが、今回の日本人人質事件につながったということで、安倍首相の責任だと一部マスコミや野党が主張しているわけです。ただ、実際には有志連合による空爆は去年の夏から始まり、去年の夏から身代金の要求はあったので、安倍首相に人質事件の責任を負わせるのは行き過ぎであろうと思います。つまり、今回急に敵になったわけではないということです。さらに「イスラム国」でカリフを名乗る最高指導者・バグダディ氏の守護霊にインタビューしたなかでも、「イラク戦争の際に当時の小泉元首相がアメリカへの支援を表明した段階で既に敵だった」という言葉もあったとおり、必ずしも安倍首相の責任ではなく、21世紀入ってからの中東の流れのなかで、起きるべくして起きた問題だと言えるでしょう。

「イスラム国」とはどんな存在なのか?

今回「イスラム国」という存在が、大きくクローズアップされたわけですが、国際社会のなかでは新顔です。はたしてどのような存在なのでしょうか。

ポイント1:米軍イラク撤退後にフセイン政権の残党を糾合して急拡大

一言でいえば、「イスラム国」はイスラム教のスンニ派の過激な組織。分かりやすく言えば、「イラクのアルカイダののれん分け」のような組織です。そして、2011年に米軍のイラク撤退後にフセイン政権の残党を糾合して急拡大したのです。それまでイラクにおいては、フセイン元大統領をはじめとする少数派のスンニ派が支配層として影響力を持っていました。フセイン政権の崩壊後、スンニ派と確執のあるシーア派のほうが中心となったため、立場が逆転したスンニ派はいろんなかたちで抑圧されるようになりました。つまり、イスラム教とキリスト教というより、イスラム教のなかのスンニ派とシーア派の戦いもあって、その流れのなかから「イスラム国」の母体となる組織がだんだん大きくなっていったということです。

ポイント2:イラクとシリアに「領域国家」を作ったのが一番の特徴

「イスラム国」がアルカイダなどのテロ組織、その他の過激派グループと大きく違うのは、去年6月29日にカリフ制の国を樹立すると宣言したところでしょう。他の組織はテロ組織でネットワークを持っているだけですが、「イスラム国」はイラクとシリアに「領域国家」を作ったのが一番の特徴です。行政組織も持っており、税金を徴収したり、いろいろな形の福祉政策のようなものまで行っているのです。

ポイント3:イスラム教徒の悲願「欧米から押し付けられた国境を打破したい」を象徴した存在

なぜ国というかたちをとったのでしょうか。約100年前にサイクス・ピコ協定という、英仏露の間で交わされた中東のオスマン帝国領を分割するための密約があります。イスラム側からすると「欧米から押し付けられた国境を打破したい」という強い思いがあるのです。そして、イスラム教の開祖ムハンマドのいた頃と同じように「カリフ制国家を樹立する」ということが、イスラム教徒の長年の悲願でもあります。ただし、「イスラム国」自体に対しては、基本的には一般のムスリムからは”嫌悪感”を持たれているようです。

問題の背景にある欧米の責任とは?

欧米圏では「イスラム国」が完全な悪魔のように宣伝していますが、欧米にも責任はあるのではないでしょうか。

欧米による攻撃でイラクの民間人40万人以上が亡くなっている

直近のところだけを考えても、2003年からイラク戦争があり、今のような空爆もあれば地上戦もありました。アメリカの大学の調査によると、ここで民間人も含めると50万~60万人のイラクの人々が亡くなりました。民間人はそのうち7割と言われているので、およそ40数万人が亡くなっていることになります。今、確かにヨルダンのパイロットが火あぶりにされるといった処刑の映像などが出て、「イスラム国」の残虐性がクローズアップされていますが、「イスラム国」の側からすると「われわれの国民がこういう目にあっているのだ」と主張をしていると言えます。

中東の地域が空爆で焼かれている現実はメディアに流れていない

実際に欧米に40数万人の民間人が撃たれる、焼かれるなどして殺されたことを考えると、それがもし映像にされたとしたら、どちらが残虐か分からないところがあります。これはメディア社会の落とし穴であり、メディアを通じて見たものだけが真実だと思ってしまうのですが、ミサイルや空爆によってイスラムの地域、イラクの地域が丸焼きにされているという現実。そういうことを考えたときに、どちらか一方が完全に悪と言えない部分がある、と言えるでしょう。

米が日本で行ったヒロシマやナガサキと同じ虐殺行為を許すのか

米オバマ大統領が「イスラム国」を殲滅する姿勢を見せるなど、国際社会がかなり熱くなっています。象徴的な言葉として、英キャメロン首相は「悪魔の化身」とまで述べています。『スピリチュアル・エキスパートによる徹底検証 「イスラム国」日本人人質事件の真相に迫る』のなかにも出てきますが、悪魔だと決めつける発想から「すべて滅ぼしても良い」という判断が生まれます。先の戦争で日本は各都市に空襲を受け、最後には広島と長崎に原爆を落とされました。民間人がトータルで100万人近く亡くなったと言われていますが、ここまでの民間人に対する虐殺行為が「イスラム国」の領域内で行われる可能性がでてきたということは、強く意識しないといけないでしょう。

たとえ「イスラム国」を潰しても問題解決にはならない

仮に「イスラム国」が潰れたとしても、彼らの掲げた大義や理念が、イスラム世界には広く浸透しています。糾合する武装組織も出てきています。「イスラム国」がなくなったとしても第二、第三の「イスラム国」や武装組織が出てくるでしょう。統一国家が作られる可能性もあります。その意味では、「イスラム国」を仮に抑え込んだとしても、根本的な解決にはならないことが考えられるわけです。

欧米に対する正当な抵抗運動の可能性がある

第一次大戦後、この中東の地域は欧米によって都合よく切り取られていきました。シリアはフランスに、そしてイラクはイギリスに。これは日本が、あるいは18世紀にアジアやアフリカが経験したことです。日本は幕末において欧米の植民地化、人種差別主義が迫っていたために、新しい政権を作って明治維新を起こしましたが、最終的にこれは大東亜戦争まで行きました。そして、日本が戦ったことにより、アジア、アフリカの植民地が結果的に解放されたという流れがあります。ある意味で、中東ではこれが今も続いていて、「イスラム国」やその他の過激なテロ組織というのは、テロリストと言われているわけですが、過去の歴史を見ると、欧米に対する正当な抵抗運動の可能性があるのです。この地域には、人種差別と植民地主義というものがいまだに根底に流れていて、こうしたイスラムの大義、あるいはアラブの大義というものが出てくる土壌があるということです。

今後、中東問題にどう対処していくべきか?

今、日本人のみならず世界中の人たちがやはり関心があるのは、「今後どうしたらいいのか」ということではないでしょうか。

欧米とイスラム圏の仲裁役は日本?

有名な国際政治学者・ハンティントン氏は、「欧米とイスラム圏の仲裁役は日本である」と断言しました。日本は独立した文明だから欧米とイスラム圏の調停ができるといいます。日本は他の国が持っていない中東圏に対するカードを持っています。それは、日本が中東圏にとても信頼され、尊敬されていることです。特に歴史に対する尊敬を非常に集めていています。植民地支配をされそうになりながらも、明治維新で平和的に改革した点、中東各国がロシアの南下に悩まされていた、そのロシアに日露戦争で勝利した点、さらにアメリカに対して4年間粘って戦いぬいた点など、そうした歴史に対して尊敬を集めているのです。大東亜戦争があって植民地が解放されたという歴史を彼らは知っています。戦いに強い者を尊敬するカルチャーがイスラムにはあるので、日本はイスラムにとってヒーロー的存在なのだそうです。

日本の近代化モデルをイスラム圏で実践してもらう

現在「イスラム国」やイスラム過激派が、日本が幕末に欧州各国に対してやっていた攘夷運動と似たことをやっているとするならば、今後イスラム圏で考えていくべきは、日本がたどった道をそのままたどる可能性があります。日本が経験した近代化です。近代産業を起こして国民を豊かにし、テロではなく正当な軍備をきちんと整える形で国を治めて、「考え方の面でも国民の豊かさの面でも欧米に対抗していく」というのがひとつのモデルになるでしょう。日本の近代化モデルを中東圏やイスラム圏にも実践してもらうことが大切です。

イスラム教にもキリスト教にも宗教改革が必要になってくる

また、100年、200年の非常に長いスパンの話になりますが、以下のことも言えます。今、キリスト教圏とイスラム教圏の間で憎悪の連鎖が続いているわけですが、この2つの宗教はもともと同じ神を信仰していることを踏まえ、多くの宗教学者が「この2つの宗教が信じている神様はそのような裁きの強い神なのか」と問題提起しています。今後、イスラム教にもキリスト教にも宗教改革が必要になってくることが予想されます。ただ、イスラム圏の人々は、スンニ派シーア派の対立なども言われていますが、基本的には平和な人々です。なかには露骨にお互いを嫌う発言をする人もいますが、実際イラクでもシリアでも混ざりあって暮らしているなど、基本的には共存してやっています。基本的には日本とも欧米とも分かり合える人が大半であるという事実は知っておくべきです。

日本の”和”の精神を中東やキリスト教の人にも知ってもらうことが大事

日本は有色人種として初めて、白人国家に負けずに近代化を成し遂げて民主化をし、更に戦争で負けても繁栄を築いてきました。日本の長い歴史を考えると、さまざまな宗教を融和させつつ発展してきましたので、中東で果たすべき日本の役割は大きいといえます。日本の伝統的な”和”の精神を中東やキリスト教の人にも知ってもらうこと、そして新しい宗教思想が日本で広がっていますので、そういったことを知ってもらうのが大事なのではないでしょうか。

今回いろいろ視点から今回の「イスラム国」日本人人質事件を検証してまいりました。私たちに求められることは、決して、世界の他の国と関わらないという鎖国の時代に戻るようなことでも、武器を持って相手を叩きのめすことでもありません。実は日本という国が、今泥沼化しているかに見えるこの中東の地域に、平和と繁栄をもたらすためにできることがあることを知るべきでしょう。