北朝鮮で生まれ育ったキム・ドンシク氏(51歳)のインタビューからお伝えします。キム氏は1990年初頭からの約5年間、北朝鮮のスパイとして韓国に潜入し、工作活動を行ってきました。韓国警察に逮捕され4年間の拘束期間を経て、現在、韓国政府系の情報機関で分析官として働いています。

北朝鮮のスパイはこうしてつくられる

北朝鮮の工作員は毎年、選抜・養成されている

北朝鮮では毎年、工作員として適性のある人材を選抜・育成しているといいます。多い年で200名近くが養成され、その中から実際に海外に派遣されてスパイ活動を遂行する者は5~6人に絞られ、さらに4年から5年の特殊訓練を受けます。職業選択の自由はなく、党から割り当てられた仕事につかなくてはなりません。キム氏も自分の意志ではなく、党の指示で工作員になったのでした。

北朝鮮のスパイはどんな訓練をするのか

キム氏自身、貯水池で8km泳ぐ、夜中に20kgの荷物を背負って40kmの山道を行軍するといったことのほかに、格闘術の訓練なども受けたといいます。それから肉体訓練とは別に頭脳を使う情報の収集・分析の訓練や、北朝鮮との連絡の取り方、暗号解読の訓練があります。また、社会の現実を体験するために建設現場で働いたり、企業で幹部としての経験を積んだりすることもあるとのことです。

任務にあたって準備すること

任務には暗殺や施設の爆破、反体制派の取り込み、特定の人物の連行などもあります。キム氏によると、訓練を受け、韓国にスパイとして入国するまで、1年近くの準備期間があるといいます。まずは身分の洗浄、ロンダリング。韓国にどのように入り込むか、韓国に入ってから寝食をどう解決するか、工作任務をどのように遂行するか、北朝鮮とどのように連絡を取るのか、どのようなルートで北朝鮮に戻るかも知らなければなりません。キム氏は高校を卒業してから、約10年にわたり、これらの訓練を積みました。

日本でも行われている、スパイ協力者の取り込み方

1990年、キム氏に「韓国内でスパイを取り込む」任務が課されたのです。

反米・反体制的な団体などから協力者を選ぶ

北朝鮮から送り込まれて韓国に定着しているスパイは少なく、韓国国内で工作員に取り込まれて活動している人たちは数多くいます。韓国には反米・反体制的な団体が多数あります。例えば『進歩連帯』という大きな組織もありましたが、親北・反米傾向の人がたくさん集まっています。デモなどに積極的に参加する人たちを、北朝鮮は目を皿のようにして見ているのです。

相手の自尊心を高めてスパイを取り込む

そうした人たちに接触するときには最初は韓国人のふりをし、やがて身分を明かすときには「これから話すことに驚かないでほしい」と落ち着かせながら、「実は私は北朝鮮からやってきた労働党の代表だ」「金正日の特使だ」と話すのだと言います。そして「あなたに会うように金正日から指示されてやってきた」という嘘で相手の自尊心を高めて取り込むのです。

独自に活動できるように育て、自分は北朝鮮に戻る

協力の意向がある人はまず朝鮮労働党に入党させます。それからスパイ網の構築や北朝鮮との連絡方法を身につけさせ、独自に活動するように励まします。必要に応じて工作資金も渡した後、北朝鮮に戻るということでした。

このようなスパイ網が存在するのは、韓国だけではありません。「日本にも私のような工作員が送り込まれていて、日本人や総連系の在日朝鮮人を取り込んでいます」とキム氏は証言しています。

韓国警察に逮捕され、二度と北朝鮮には帰れない身に

1995年、韓国でのスパイ活動が当局に発覚。キム氏は韓国警察に狙撃され、逮捕されます。

北朝鮮に残してきた家族が拘束された

北朝鮮から見ると、この逮捕によってキム氏は2つの罪を犯したことになります。1つは、任務遂行に失敗したこと。もう1つは、拘束される前に自殺しなかったこと。これにより、キム氏は二度と北朝鮮には帰れない身となりました。後にキム氏は、自分の失敗により北朝鮮に残してきた家族が拘束されたことを知ります。家族の消息は、今もわかっていません。

国際社会に期待すること

キム氏は、国際社会に期待することとして、まずは外の情報を北朝鮮内部に送り込んで『この体制は間違っている』と人々に実感させることが大事だと語ります。そして北朝鮮への支援は止めるべきだと述べ、その理由として、国際社会は北朝鮮の人たちを気の毒に思い支援を送っているが金正恩体制を延命させることにしかならない点を指摘しています。

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