9月14日に行われる自民党総裁選。現在、総裁就任が最も有力視されている菅官房長官ですが、もしも「菅総理」誕生なら、どのような変化が起きるのか?対中関係、沖縄問題、自民党派閥政治などの観点から、政治学者のロバート・エルドリッヂ氏にお話を伺いました。

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【ロバート・エルドリッヂ氏】
エルドリッヂ研究所代表。政治学博士。
1968年米国生まれ。
神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。
元在沖縄米海兵隊政務外交部次長。
東日本大震災の「トモダチ作戦」の立案者。

※この番組は自民党総裁選前の2020年9月2日に収録しました。

「ポスト安倍」の後継レースと自民党総裁選の問題点

里村英一幸福実現党政調会長(以下、里村)
さまざまな実力者という方が出てきてポスト安倍、安倍首相の後継者がほぼ決まり、自民党総裁選へという流れなんですけども、これを見てエルドリッヂ先生、例えば自民党にしても日本の今後についても、現在思ってらっしゃるところをお伺いしたいと思うんですけども、いかがでしょうか。

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後継者選びについて自民党の過去の教訓が生かされていない

エルドリッヂ氏
自民党の過去の教訓が十分に活かされてない気がすると思います。

里村
過去の教訓というのは?

エルドリッヂ氏
例えば2006年の安倍総理の第一次安倍内閣の誕生の背景ですけれども、あの時は自然の流れとして、総理になるのは福田康夫さんだったけれども、安倍先生があまりにも人気だったので、総裁になって総理大臣になったんですけども、短期政権で終わってしまった。今回は菅官房長官にちょっと人気が集まっているので押そうとしているんですけれども、政策とか、あるいはこれからのこういう日本を作りたいということを語らず、もうこれで行こう、数字で行こうとしているのは非常に違和感がやっぱりあります。

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里村
「何を」じゃなくて、すぐ日本の場合は「誰が」になるんですよね。何をどうするかじゃなくて、誰がどうするんだ、というように、「誰」に行っちゃうんですね。

後継者決定のプロセスが相変わらず不透明

エルドリッヂ氏
いま仰っているように、「何」ではなく「誰」なのか、さらになぜこうするのかの説明がないままになっていると思います。この間非常に狭い議論しているのをちょっと感じたのが、出馬したい方々が発言するようになってすごく面白かったのが、例えば岸田さんにしても石破さんにしても、周りの方々は若い人もいない、そして女性もいない、要するに男性しかこれからの日本を決めようとしていないということですけども、日本の社会は大きく変わっています。もっと若い人たちの意見とか、女性の意見とか、もっとやっぱり聞くべきです。けれども結局「おっさん」ばっかりの集まりで、しかも不透明な形でされているのは非常にやっぱり違和感が今回ありました。安倍総理はいずれ辞める。ちょっと遅かったと思うんですけれども、いずれにしてもリーダーは最初の日から後継者を育てないといけない。企業もそうだし、多分大学の研究室もそうですけれども、それをやってきたかどうかはやはり検証する必要があると思うんです。けれども、もちろん 例えば安倍総理と菅さんのコンビが良かったと思うんですけれども、でも安倍総理が菅さんをリーダーとして育てたかどうかはちょっと疑問があると思います。

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「菅総理」誕生なら二階幹事長の関係はどうなるか?

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エルドリッヂ氏
もし最終的に菅現官房長官が総理になった場合は、非常に大変と思います。まずやっぱり、選挙で選ばれていないということです。例えば総選挙で圧勝した自民党で、その総裁が総理大臣がなったらいいんですけれども、それがないという形です。だからどこまで支持されているのかがもう分かりません。

中国寄りの政権になる可能性が十分にある

エルドリッヂ氏
その後のもし菅政権になった場合、いろんな課題があると思います。一つはやっぱり、今まで安倍総理の下で務めていたんですけれども、官邸を多分変えられないと思う。雰囲気的には、安倍総理の直面していた同じ問題、不透明性・説明責任が十分に果たされてない。文書の乱暴的な扱い方とか、いろんな問題のままで菅政権になったら、国民が多分納得しないと思います。だから改革しないままで政権になったらよくないし、こういうあまり人気がない、支持されていない場合は、ますます幹事長に依存せざるを得ない。二階さんが変わるとも思えないので、だから依存度がますます高まります。ご存じのように二階さんが「中国寄り」と言われている。だから菅政権が、もしかすると、より「中国寄り」の政権になる可能性が十分あると思います。

里村
二階さんが幹事長やろうがやるまいが、事実上の二階さんの「院制」が敷かれるみたいな言い方もしてるんで、幹事長人事を超えてやっぱり今後の日本にとって、対中国の距離が大きな問題集に残るところですね。

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拓かれた政策議論のために、今の日本の政治に必要なこと

健全な野党がない

エルドリッヂ氏
やっぱりこういう緊張感がない政権が誕生すると良くないと。だから、完全に派閥の論理で動いている状態です。だから それを打破するには健全な野党とかが必要です。でもそれが残念ながらないし、例えば幸福実現党が正式に登壇する機会があまりない。したがって 政策の議論が非常に限られてしまう。むしろ、安倍政権の間、自民党は幸福実現党寄りの政策をどんどん取ろうとしてきたんですけど、公にやっぱり発表の機会がないし、日本のメディアがそういう機会作らないのは本当に残念だなと思っています。

里村
政治というのは公共性を作る上で、やはり議論というのはものすごい大事なんです。いろんな立場からの議論が出ることによって、やはりそれは深まっていくし、それが極めて現在の日本においては、自民党もそうだし、野党もそうだし、メディアもそうですけど、いろんな立場からの議論が出ないで一部の論理だけで進んでいくんですね。これが日本にとって 危ないという、これは自民党にとっても危険な兆候だし、日本にとっても危ないと理解してよろしいですか?

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「永田町」には競争の原理がない

エルドリッヂ氏
そうですね。とにかく競争の原理が「永田町」にはなさすぎです。それが国民が多分納得しないと思います。

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次の政権でも懸念される沖縄を取り巻く安全保障問題

沖縄政策は国内だけの問題ではない

エルドリッヂ氏
もし菅さんになった場合、もう一つ不安にしているところがあるんですけども、それは「沖縄政策」です。私はずっと沖縄政策を近くで見てきたんですけれども、全くできていないと思います。今後、もし誠意を持って取り組まなければ、ますます大変になります。なぜならこのアジア太平洋の安全保障政策がますます重要となってきているんですけども、特にアメリカからすると、日本は沖縄が「政治問題」だ「国内問題」だという扱いですけれども、ちゃんとやっていないのは 日米で大きなミスマッチが生じかねないと思います。

里村
日本では本当に 沖縄は「国内問題」。中国じゃないですけど内政問題になっちゃって、アジアとのいろんな安全保障の絡みで論じるのっていうのがすごく弱いですよね。

エルドリッヂ氏
そうですね。だからアメリカからすると沖縄はどちらかといえば「地政学的」に見ているんですけれども、日本は「内政学的」に見ているんです。

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里村
なるほど。ここは次の、ほぼ間違いないんですけど菅政権になった場合の大きな課題として残るし、今までそれを進められなかった以上、あまり進展ができないんじゃないですか?

エルドリッヂ氏
だから菅内閣になった場合、私は沖縄担当大臣にさせてほしいと思います。これは冗談ですよ。

里村
でも抜本的に変えないと。中国の動きも、南シナ海での動きとかもどんどん活発化してくるばかりですしね。ということで、今後のポスト安倍、どなたがなるにしても自民党の課題、日本のこれからの課題についてエルドリッヂ先生からご意見をいただきました。ありがとうございました。

エルドリッヂ氏
ありがとうございました。