2016年1月18日、大幅に加筆・修正しました。

今回の加筆・修正の理由は、1月16日の台湾立法院選挙で
5議席を獲得した「時代力量」のルーツである
「ひまわり学運」について
日本でももっと知られるべきだと思ったからです。
今回、彼らが批判した国民党政権が倒れ、
「時代力量」が議席を5つも獲得したという事実は、
彼らの行動が台湾を大きく動かしたことを示しています。

その運動に参加した台湾の人たちの声を記しておくことは
小さくない意味を持つものだと思います。

後ほど、写真等も追加したいと思っています。

また、現地の熱気と臨場感を味わっていただくためにも
ぜひ、動画もご覧ください。

その時、何が起こっていたのか?

2014年3月18日、台湾で学生による立法院占拠が始まり、
さらに3月30日には50人万人が参加したデモが行われました。
この学生デモの引き金は、
台湾と中国の「サービス貿易協定」にあります。
国民の声を聴くことなく審議を打ち切った政府与党に対し、
学生たちの抗議活動が始まったのです。
この時期、馬英九総統の支持率が9%まで低下し、
世論調査では「60%以上の人がサービス貿易協定に反対」
という結果がでました。

現地を取材した理由

なぜ、現地取材を行ったか?
それは日本のメディアの報道を通じては、
彼らの動機が見えてこなかったからです。
もちろん、「サービス貿易協定に反対して、
学生が立法院を占拠している」という概要は
わかるのですが、日本メディアの伝え方は
どちらかというと、審議を経ずに、
密室で決められてしまった協定決定のプロセスに対して
学生たちが不満を持った、というニュアンスが
主でした。

取材をしたところ、
確かにその決定プロセスに対する不満を
口にする学生はいました。
「政府のやり方は民主主義に反している」と。

これだけを見ると、
この翌年、日本で行われた「安保法制」に対する
SEALsのデモにも似ているように見えます。

しかし、実際に50万人デモに参加し、
インタビューして強く感じたのは
彼らを行動へと駆り立てた最も大きな要因は、
「中国に呑み込まれてしまうことへの怖れ」だと
いうことです。

インタビューをいくつか紹介します。

「台湾・中国ともにこの協定を監督する
法律がないことが問題です。
馬政府は国民の声を聞かず、
一方的に決めようとしています」

「実例としては香港がありますが、
返還後は言論の自由がなくなっています。
サービス貿易協定にサインすると、
台湾もそうなるのではないかと心配です」

「他の国同士の協議なら監督機能もあるけれども、
台中関係は国同士ではないので、監督機能が働かないのです。
経済的にいえば、協定には双方に利害があるのですが、
しかし台湾の人が恐れているのは
経済問題ではありません。
私たちが心配しているのは『国防問題』です」

「私たちは台湾がだんだん中国に
統一されていくことが心配です。
中国は『経済力で台湾を取る』と言っているので、
今回、協定にサインすれば本当にとられる
という危機感を感じています」


こうした声を聴くと、
当時の国民党政権の中国寄りの姿勢、
これが台湾国民に危機感を抱かせていたことが
わかります。

3月30日、50万人を前に、リーダーの一人、陳為廷氏は
このようなスピーチをしました。

「馬英九と国民党政府はこれまで、
あまりにも多くの合意を守らなかった。
彼は中国を恐れ、既に中国の北京政府と約束しているのです。
北京政府は6月までに協定を完了するように、
馬英九に要求しているのです。
これは独裁主義と我々の民主主義との戦いです」


このスピーチにすべてが集約されているように思います。
台湾がこれから歩もうとしている方向の起点には、
「ひまわり学運」の行動があったのです。

50万人デモに参加して感じたこと

3月30日のデモは、まるで「野外フェス」のようでした。

総督府前の大通りを通行止めにして
大きなステージを設け、朝から夜8時まで
その上でたくさんのグループが入れ替わり立ち替わり、
スピーチやライブを行うのです。

ステージ前には早朝から並んでいた参加者たちが
地べたに座り、ステージに向かって
歓声や拍手を送っています。

長丁場なので、常に会場が熱気に満ちている、というわけではなく、
有名な人がスピーチや演奏する時に盛り上がる、
という感じの、どこかのんびりとした雰囲気もありました。

会場を訪れて思ったのは、
とにかく「若い」ということでした。

もちろん、様々な世代の方が参加しているのですが、
大多数の参加者が学生でした。

それも特殊な思想の持ち主ではなく、
日本にいたとしても、何の違和感もないような
ごく普通の学生たちです。

そんな、ごく普通の学生たちがしっかりと現状を把握し、
行動を起こしている姿を目の当たりにして、
軽いショックを覚えました。

「時代を変えるのは若者の力」
という言葉は、日本では絵空事のように聞こえます。
しかし、台湾では現実に学生たちが
社会を動かしていました。
これは香港でも同様です。

そこに、ある種の希望、のようなものを感じました。
いまは現実感を帯びていませんが、
何かのきっかけで日本でも同じような動きが
起きる日がくるかもしれません。