もし、トランプ大統領が誕生したら、
アメリカは「孤立主義」を目指すのか?
それとも「世界の警察官」にカムバックするのか?

トランプ候補の発言を読み解き、
その政策を探るシリーズ第3回。
今回は、「外交・安全保障政策」について
及川幸久さん(幸福実現党外務局長)と
分析を進める。

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「孤立主義」か「世界の警察官」か?

torannpu

里村 では、トランプの政策の2点目の方向性です。
「より効率的な世界の警察官へ」――。
オバマ大統領は「世界の警察官をやめる」と
言ってきました。
これに対して、トランプはどのように
言っているんでしょうか。

及川 厳密に言うと、トランプが「もう一度、
世界の警察官に戻るべきだ」と
はっきりと言っているわけではないんですが、
さまざまな発言を見ていくと、
結局、「世界の警察官」に戻る、ということなのかな、
と推測することができます。

OP2s

及川 まず、彼が主張するのは、
「アメリカの軍事力を強化すべきだ」ということです。
軍事力という意味で、アメリカをもう一度
Greatにするべき、世界最強にすべきであると。
オバマはその逆をやりました。軍事費を減らし、
アメリカの軍事力を弱くしたわけですね。
トランプ自身は「アメリカの軍事力はもう一度
強化すべきだ」と言っている。
ただ、軍事力強化というと、我々は単純に軍事費を
増やすんだなと思うですがそうじゃない。
経営者の目線で、アメリカの軍事システムの
無駄を見つけて、「私だったらもっと安い金で
もっと強くできる」ということを言っています。

里村 軍事強化というと、予算が絡んで税金が
増えるという発想になりますが、そこを逆に
経営者として、より安く効率的に
できるということを言っているわけですね。

及川 そうです。生産性のところですね。

里村 トランプではありませんが、
テスラモーターズやスペースXの創業者である
イーロン・マスクが宇宙事業に乗り出す時、
「宇宙開発は政府がやるからあんなにコストが高い。
民間がやればもっと安く宇宙開発ができる」と
言いました。あれは結構驚きましたが、
トランプも同じことを言っていますね。

及川 そういう意味で、彼はあくまでも政治家として
ではなくて、経営者としてやる、と。

里村 経営者視点があるわけですね。
トランプは孤立主義、モンロー主義ではないんですか。

及川さん1s

及川 トランプが大統領になったら、孤立主義的に
なると、日本の評論家の間では言われていますが、
彼が「軍事力を強化するべきだ」と言っている理由は、
それによって「ならず者」が悪さをしなくなるからです。
「イスラム国」(ISIL)など、
ここ数年、オバマ政権下で起きていることは、
結局アメリカの軍事力が弱くなったことが原因だと。
もっと具体的にいえば、「オバマは地上軍を送らない。
やるとしても無人機で空爆するだけだ」と
思われているので、テロをやりたい放題になったのだと。
でも「いざとなったらアメリカはこれだけ強いんだ」
というのを見せれば、逆に「ならず者」は減るんだと。
つまり、「世界の警察官」に戻るということですね。

里村 そういう意味では決して孤立主義、アメリカの
防衛のためだけに軍事力を強化するのではなくて、
やはり世界でいろいろと起きているものを
抑止していくための軍事力強化ということですね。

及川 そのとおりですね。
それがこのスローガン(”Make America great again”)に
現れていますね。

里村 まさに“Great America”ですね。

「イスラム国」、シリアについて

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里村 さて、トランプは、外交問題や国際政治上の
大問題について、具体的にどう発言しているか。
フリップにまとめましたので、及川さんに紹介して
いただきたいと思います。
まず「イスラム国」については、
どのように言及しているんでしょうか。

及川 いま、「イスラム国」、ISILへの対策は、
十分にできていないんですよね。
だから今、みんな手をこまねいていて、
とりあえず空爆だけやっている。
トランプは、まずは「ロシアに任せろ」と
言っています。

里村 ロシア!?

ぷーちん

及川 ええ。「ISIL攻撃はロシアに任せろ。
いま、アメリカが空爆をやってどうするんだ」と
言っています。
もう一つは、「セーフゾーン」という言い方をして
います。要するに、安全地帯ですね。
結局今、シリア国内で安全な所がどこもないので、
大量のシリア難民が出ているわけです。
トランプは難民を出さないために
「シリア国内に『セーフゾーン』を
作るべきだ」と言っています。
オバマは、アメリカだけではなく
イギリスやフランス、中東諸国などの有志連合で
空爆をやった。
「どうせ有志連合をやるのだったら、
『セーフゾーン』を皆で作ったほうがいい」
というのが彼の案です。
「シリアの難民たちが他の国に出てしまったら、
もう二度と帰ってこれないだろう」と。

里村 今、新しい問題をヨーロッパに
生んでいるわけですから。

及川 「難民問題を起こすぐらいだったら、国内に
『セーフゾーン』作って守ってあげて、
このISILの問題が終わったら、
自分たちのふるさとに帰してあげたら
いいじゃないかというのが、トランプの説です。

里村 「『イスラム国』への空爆は、
ロシアに任せるべき」というのは、
すごいドラスティックである意味、
経営者らしい考え方です。
プーチン大統領はやりたがってるわけですから、
「任せればいいじゃないか」と。
プーチン大統領と非常に馬が合いますからね。

及川 そうですね。

イランとの「核合意」について

里村 そしてイラン。
年初、イランはサウジアラビアと国交断絶しました。
やはり大きいのは、オバマ大統領による
イランとの核合意。
オバマ大統領はこの合意を「外交による歴史的合意」
としていますが、トランプ氏はイランとの核合意については
どのように言っていますか?

obama

及川 結局、昨年オバマ政権がやったイランとの
核合意。アメリカはサウジやイスラエル側だったのに、
核合意によって、いつのまにか
イランと奇妙な同盟関係になってしまった。
これについてトランプは、「逆だ」と言っています。
イランには融和政策ではなく、やはり制裁すべきだと。
制裁解除で、イランは石油を売れるようになった。
これで一気にイランに石油の売上が入ってくる。
石油価格が下がっているとはいえ、量が多いので
イランには収入が入ってきますよ。
そのお金は何に使うかというと、
秘密裏の核兵器開発に使うし、
そのお金がたぶん北朝鮮はいきますよ。

里村さん1s

里村 そうですね。それで北朝鮮の武器を買ったり。
早くももう今年に入って、そのイランの問題が
結果的にサウジアラビアとイランとの緊張を
高めるというかたちで出ていますね。

及川 オバマによる経済制裁の解除によって、
イランはお金が増えたので、
サウジとの対峙も安心してできるわけです。

里村 そうですね。それに対してサウジアラビアが
危機感を高めてしまった。
難しいけど、融和政策、
あるいは国際的な親善政策というのは
いいことのように思えますが、
実はそれが新しい火種を作るということが多いので、
本当に智慧が必要な部分ですね。

及川 そのとおりですね。

北朝鮮の「核保有」について

里村 今年に入って水爆実験をした
北朝鮮に関してはどうですか。

及川 北朝鮮がアメリカの大統領選挙の論争の中
で出てくることはまずありません。
トランプは現在アメリカの大統領選挙の候補者に
なっている共和党・民主党候補の中で、唯一、
北朝鮮の名前を挙げて対応策を言っている人ですね。
「北朝鮮は核兵器を持っている国である。
かつ、独裁国家で、狂った独裁者が核兵器を
持っている。これに対して何か対処すべきだ。
それをなぜ誰も言わないんだ」と。
こんな狂った人間に核兵器を持たせていいのかと。
六カ国協議なんて何年も成果が出ないものを
続けてどうするんだ、というのが、彼の主張です。
(第4回につづく)

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