2020.05.13 | 中国
5月22日、中国の全国人民代表大会が1週間の日程で開催された。
そこで李克強首相が中国経済について衝撃発言。
なんと、中国では月収が約1千元(約1万5千円)の人が6億人いるというのだ。
今回の全人代で分かった中国経済発展の“ウソ”について中国専門家である
元拓殖大学海外事情研究所教授の澁谷司氏に分かりやすく解説していただいた。
※本記事は動画ではカットしたインタビューも掲載しています。

澁谷先生プロフ写真

澁谷 司(しぶや・つかさ)氏
1953年生まれ
元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。
ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)のビジティング・プロフェッサー。
東京外国語大学中国語学科卒業後、中国・台湾など、東アジア国際関係論の
専門家として活躍している。

李克強首相が発表した衝撃の事実

月収1千元(約1万5千円)の人が6億人いるという事実

対談

里村英一(以下、里村):(今回の全人代で)特に経済問題についてお伺いしたいんですけども、
澁谷先生からみて、「ここがポイントだな」というところを教えていただきたいのですが。

澁谷司(以下、澁谷): 李克強さんが政府活動報告で、全人代初日の22日にお話になった中で、
「中国では550万人しか貧困層はいない」というふうにおっしゃっていたんです。
ところが、全人代が終わる日の記者会見で「月収1千元(約1万5千円)くらいの人が6億人いる」
と聞いた時にはさすがに私もびっくりしました。
しかし、以前から数字として5.6億人の人たちが預貯金ゼロということを知っていたから、
「じゃあ、当然だな」と。月収1千元ということは年収で18万円くらいしかないんだから、
「預貯金なんかあるはずはない」と思ってですね、非常に納得したわけです。

李克強首相

里村: 私もですね、今先生がおっしゃった「6億人が月収1千元」というのはちょっと驚きました。

実現不可能ということが露呈した中国共産党が掲げる「小康社会」

澁谷: 習近平さんとしては、いわゆる2020年度までに「小康社会」という、
いわゆる「ややゆとりのある社会の実現」と言っていたのですが、
それが不可能であると内外に李克強さんが宣言してしまったんです。
ですから、ある意味、習近平さんの顔に泥を塗ってしまった。
習近平さんは全くメンツを失ってしまったという状況ですよね。

隠しきれなくなってきた中国共産党内の不協和音

里村: たとえば、この前行われた米中経済貿易交渉のような重要な場には、
首相が行ってトランプ大統領と最後のやり取りをして収まるみたいなものがありますけれども。
澁谷: 副首相の劉鶴(りゅう・かく)さんが(米中経済貿易交渉に)参りましたけれども、
劉鶴さんというのは前から習近平さんの政策ブレーンだったんですね。
そして、ブレーンの劉鶴さんがアメリカに行って、大事な李克強さんは外されました。

劉鶴

里村: あれは異例の姿ですよね。
決して目立たないのですけども、
そういった所で、中国共産党の不協和音が出ている。

澁谷: ずっと初めからあったわけですが、
つまり、2012年の秋に習近平指導部が発足しましたけれども、
それ以来ずっと李克強さんの経済政策の権限が徐々に縮小されていって、
ほとんど外されている状況ですよね。

実データで明らかになる経済成長の“ウソ”

経済成長率目標が設定されなかった異例の全人代

里村: 今回の全人代で異例の事態として経済成長率の目標が出なかったと。
これが日本で話題になっているんですが、これはいかがでしょうか。

澁谷: これは今までに無かったことですし、
ただし、今までのGDP成長率6~7%という数字自体が私は疑問を持っております。
ちょっとご説明させていただいてもよろしいでしょうか。

データでみる中国の経済成長率の矛盾

澁谷: 例えばですね、中国の場合、「李克強3指標」(※)というものがございまして、
2007年に李克強さんが当時遼寧省のトップだった時に、
アメリカの外交官に語ったと言われている数字です。
「電力消費量、貨物輸送量、銀行の貸付高」の三つの数字だけが、
まあまあ信用できて、あとはマン・メイド、つまり人工的だと言ったんですね。
それで、李克強3指標と言われていますが、3指標に加えて貿易総額や国内消費など、
まとめたものをグラフ化しました。

※「李克強3指標」とは…李克強首相が中国の経済統計のうち
信用に足るとした以下の3つの指数で それ以外の数字は「人工的」だと述べた。
(1)電力消費量(≒発電量)(2)貨物輸送量(3)銀行の貸付残高

1_中国の発電量とGDPの推移

澁谷: これが発電量のグラフです。
習近平政権は2013年から事実上発足したと考えていただいていいと思うんですね。
発電量は増えていたんですが、2015年の発電量がマイナス3.0%なんですね。
この数字が正しければ、「経済が成長していない」ということになりますよね。

2_中国の貨物輸送量の推移

澁谷: それと、これが貨物輸送量のグラフなんですが、
輸送量の伸び率を見ていただくと分かるんですが、
2014年と2015年はマイナスになっているんですね。
これは「モノや人が運ばれていないということを意味するので、経済が不活発であった」
ということが言えると思うんですね。

3_中国の人民元. 外貨貸付残高とM2の推移

澁谷: それから、銀行の貸付残高なのですが、
これを見ていただくと、そのまま数字が右肩上がりになって、きれいに伸びています。
これはどういうことかというと、おそらく不況も何もなく、お金はどんどん刷られていると。
そして貸し出されているということですね。
要するに「銀行は国有企業や一般企業に貸し出している」ことを表しているのかなと思います。

1_2中国の発電量とGDPの推移

澁谷: 1枚目のグラフに戻りますが、2015年は経済の不活発さを示す数字が出ているのにも関わらず、
GDPを6.9%にしています。これは「明らかに数字を動かした」としか考えられないですよね。

6_中国貿易総額の推移

澁谷: 中国の貿易総額の推移を見ても、成長率が急に2015年でマイナス7.0%になっています。
その意味で、2015年はかなり経済が厳しかったことを示しています。

4_中国の固定資産投資の推移

澁谷: 固定資産投資も2009年、つまりリーマンショックの翌年からずっと右肩下がりです。
中国共産党がお金を出して投資をしても、なかなかうまくいかないという状況です。
例えば一番有名なのは、ゴーストタウンと言われるもので中国のそこら中にありますが、
最低でも20億から30億人が住めるマンションなどが建てられているわけです。
ですから、「相当たくさん無駄なものを作って今まで投資してきたけれども、
全然経済的に良くならなかった」という事をこのグラフは示しているわけですね。

5_中国の消費伸長の推移

澁谷: もう一つ申し上げますと、これは中国消費の推移なのですが、
基本的に下がっています。2018年はちょっと戻った感じなのですが、
全体としては右肩下がりになっていると。だから、
「中国経済が落ちてきている」というのは明らかですよね。

7_中国のGDPに占める消費の割合

澁谷: さらに驚いたのは、GDPに占める消費の割合が結構大事でして、
ご存じかもしれませんけど、日本の場合だと、GDPに占める消費の割合が約6割、
アメリカの場合は7割と言われていて、中国の場合はグラフとみていただくと、
2012年から2014年にかけては右肩上がりで良かったんですよね。ところが2015年にガクッと下がります。
これは先ほども言いましたが2015年は相当経済が厳しかったという事を示しています。
また、2016年になって右肩上がりになるかなと思ったら、翌年から戻ってしまっています。
どういうことかと言いますと、いわゆる投資の部分は政府が企業にお金を与えて生産させていたんですが、
中国で消費を増やすには減税かお金を配るかのどちらかしか無いわけです。
それにもかかわらず、「消費が減っていっているということは、やはり、先ほども出てきた数字ですけども、
6億人が月収1万5千円しか使えないという状況を表している」のかなと思いますね。
本来ならば、中国が日本やアメリカを抜くには消費の割合が右肩上がりになっていないといけないわけです。

もし“本当”に中国のGDPが毎年6~7%を維持していたら・・・

澁谷 常識的に考えてですね、もし中国が日本の2倍とか3倍で、
アメリカの半分ぐらいの世界第2位の経済体が6%も7%も毎年成長していたら、
あっという間にアメリカの経済規模を抜きますよね。
だけど、そういう感じは全然ないですよね。
アメリカなんかは2%から3%くらいの成長率で、「まあまあ」と言われているわけですよね。

里村: 毎年6%ぐらいで成長していて、そしてまだ、14億人のうち6億人が月収1万5千円ですもんね。
今回明らかになったことは、「中国は全然豊かになっていなかった」ということですよね。

人民元

澁谷 そうなんです。ですから、中国の2019年の平均年収が3万元ですから、
日本円でいうと約45万円ですよね。45万円しかなくて本当に消費社会が到来するのでしょうか。
まあ、北京や上海、深センの大都市を見ていると、
「おお、これはすごい」となりますが、それ以外の中都市、小都市、農村の場合はかなりひどい状態です。

“崩壊しない”ことが前提となっている中国経済

里村: 話が変わりますが、大切なポイントとして中国バブル崩壊についてお伺いします。
これについては私もよく聞かれるのですが、先生はこれに関してどうお考えでしょうか。

澁谷: 中国では株にしても不動産にしても、ご存じのようにですね、
中国共産党は売り買いできないように人為的になっていますので、崩壊するも何もなですよね。
不動産にしてもですね、買うことは良いけれども売ってはいけないとか、株にしても同じですよね、
2015年の6月から7月にかけて、株バブルが崩壊しましたけれども、
半年は売ってはいけないとか、それが伸びて1年は売ってはいけないとかですね、
そんなことやっている以上、いつ崩壊するも何もないですよね、
中国経済が崩壊しないように共産党が人為的にストップをかけているわけですから。
普通の資本主義国家だったらとっくの昔に崩壊しているんだけど、
中国共産党は人為的に崩壊させていないという現状はありますね。

中国共産党はこれからどうなる

別居説も流れ始めて四面楚歌状態の習近平主席

里村: 今日の最後のポイントとして、澁谷先生にお伺いしたいのが、
中国を襲った経済的異変や6億人の月収1万5千円で暮らしている方々の存在、
中国共産党のこれからはどのようになると予想されますか。

澁谷: 相当、現時点で厳しい状況ではありますよね。
習近平さんはいわゆる四面楚歌の状況。
党内の軋轢だけでなく、身内であるファーストレディの彭麗媛(ほう・れいえん)さんや
娘の習明沢さんにも突き放されて別居状態であると言われていますよね。
それほど、かなり習近平さんは追い込まれている。

彭麗媛

追い込まれた習近平主席に残された“戦狼外交”という選択肢

澁谷: だからこそ、香港を含めて外に強硬に出るしか策はない。
党内でもかなり厳しい状況で、且つ、身内からも呆れかえられていますから。
そういう状況なので、いわゆる戦狼外交(※)と言われていて、
英語でいうとWolf Warrior(ウルフ ウォーリアー)と言うんですけども、
外に強硬に出ているのはそのためじゃないか、というのが私の考えです。
※「戦狼外交」とは…中国の人気アクション映画『戦狼』になぞらえた、
過激な外交官による中国の高圧的で好戦的な外交手法。

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https://thefact.jp/2020/1988/

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