テロ行為や人質殺害など残虐性のみが強調され、
その実態が見えない「イスラム国(IS)」。

彼らはどんな組織なのか?
彼らが目指すものとは何か?
そして、今後の行方は?

「イスラム国(IS)」についてわかりやすく解説します。
(2016年1月8日、記事内容を大幅に追加・改訂しました。)

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「イスラム国(IS)」はテロ組織?

「イスラム国(IS、ISIS)」は、
「イスラム教スンニ派に属する過激武装組織である」
という見方がいまだに一般的です。

昨年のパリ同時多発テロなど世界各地で
テロ事件を起こしている「イスラム国(IS、ISIS)」と
9.11同時テロを起こした「アルカイダ」を
似たような組織だと考える人は多くいます。

しかし、「イスラム国(IS、ISIS)」は
「アルカイダ」などの、従来のイスラム過激派組織とは
全く異なる組織です。

isuramu

「イスラム国(IS)」と「アルカイダ」との違いは?

では、どこが大きく違うのでしょうか?

アルカイダは自分たちの領域を持たずに、
アメリカなどの欧米諸国を主な対象として
テロ行為を行う「ネットワーク組織」です。

それに対して、
「イスラム国(IS)」は
イラクからシリアにかけて広範囲の支配「領域」を持ち、
その領域内の住民をシャリーア(コーラン、
ハディースなどを法源とした法律)の下に
「国民」として統治しています。

つまり、「イスラム国」は「アルカイダ」とは違い、
「領域」「国民」「権力」という三要素を備えた
事実上の「国家」なのです。

アルカイダ~、イスラム国~

「イスラム国(IS)」を「国家」として認めることは、
彼らの正当性を認めることになる、として反論する方もいますが、
そうしたイデオロギーの問題ではなく、実体論として
「イスラム国(IS)」を事実上の「国家」として認める専門家は多いです。
(『イスラーム国』著者アブドルバーリ・アトワーン氏など)

彼らを「国家」として認識することと
彼らの残虐行為や人権侵害を肯定することは別のことです。
ここでは彼らの実態について見ていこうと思います。

「イスラム国(IS)」の「国家」としての実態

2014年6月29日、「イスラム国」の指導者
アブー・バクル・バグダディーは自らカリフを名乗り、
イスラム国家の建国を宣言しました。

カリフとは「預言者の後継者」という意味の言葉であり、
イスラムの歴史の中で、カリフを唯一の国家元首とした
カリフ制国家は幾度かありました。

では、彼らの言う「国家」、
「イスラム国」の実態はどんなものなのでしょうか。

①国土(支配領域)

現在、アメリカ主導の有志連合による空爆で
狭まりつつありますが、
今なお、「イスラム国」は、
イギリスの1.5倍の面積(約30㎢)を支配しています。

2015年イスラム国の支配領域図

②行政組織

カリフの下、シャリーア(コーラン、ハディースなどを
法源とした法律、イスラム法)に基づき、
軍事機関はもちろんのこと、
議会機能や裁判所、警察、メディア機関などを
運営しています。

イスラム国の構造

③収入

こうした行政サービスによって領内に秩序をもたらす代わりに、
彼らは住民に対して電気、携帯電話ネットワーク、
インターネット接続、小売店、製造業、農業などに
20%の税金を課しています。

IHSの報告によると、
「イスラム国」の2015年の収入は
推計で毎月約8000万ドル(約98億円)。
その約50%が住民からの「税収」、
約47%が「石油」によるものです。
(「OSINT Summary: US official reports on Islamic State revenue stream」より)

イスラム国月毎収入グラフ

なぜ「イスラム国(IS)」は急速に勢力を伸ばしたのか?

「イスラム国(IS)」誕生の背景には、
アメリカによるイラク戦争(2003年)と
「アラブの春」を機に勃発した
シリア内戦(2011年~)がありました。

これらの戦争によってイラク・シリア両政府は
機能不全を起こし、両国には政府の力の及ばない
膨大な地域が出現し、地域勢力の小競り合いによる
混乱と無秩序状態が生じました。

そこで勢力を伸ばしたのが
当時、「イラクのアルカイダ」と名乗っていた
「イスラム国(IS)」でした。

まず、彼らはイラクで徐々に住民の支持を得て、
勢力を伸ばしました。
「イスラム国(IS)」は人権侵害などの
多くの問題も起こしていますが、
統治した地域には一定の秩序が生まれたのも事実です。

続く、シリア内戦後、シリア国内に勢力圏を急速に広げ、
最終的にアルカイダと訣別。
領域国家としての「イスラム国(IS)」の国家樹立を宣言したのです。
(「イスラム国(IS)」成立の経緯については、
「イスラム国」はアメリカによってつくられた?よくわかる中東問題(2)でも触れています)

「イスラム国(IS)」は欧米による領土分割協定から生まれた現在の国境線を認めていない

では、なぜ、「イスラム国(IS)」は
イラク・シリアの国境を無視して、
自分たちの支配領域を「国家」として
宣言したのでしょうか。

そこには、彼らなりの論理があります。

それは、
「現在の国境は欧米が勝手に決めたものであり、
 それを認めない」
という考え方です。

1916年時点地図

1916年、イギリス、フランス、ロシアは、
第一次大戦終了後のオスマン帝国の領土分割案として
「サイクス・ピコ協定」を秘密裡に結びました。

当然、この地に住む人たちは
それをまったく知らされていません。

イギリス、フランス、ロシアの目的は主に二つありました。

それは、
第一に、石油資源をはじめとする利権を獲得すること。
第二に、まとまったアラブ国家の出現を防ぐこと。

「サイクス・ピコ協定」は自分たちの利益のみを
考えた利己的な協定でした。
当然のことながら、
宗派や民族、部族の違いなどを
全く考慮に入れていません。

サイクスピコ協定の図

この時に分割された統治領域の境目が
現在のイラクやシリアの国境となっています。

現在の国境図

その結果、この地域では宗派や民族、部族の違いによる
争いが100年間繰り返し行われたのです。


この意味で、方法論はともかくとして、
「イスラム国(IS)」の主張には一定の正当性があると言えます。

「統一的なイスラム国家の建設」

「イスラム国(IS)」はイラク、シリア領内に止まらず、
支配領域を広げ、「オスマン帝国」のように巨大な版図をもった
「統一的なイスラム国家の建設」を理想としています。

バグダディ氏はカリフ就任のスピーチの中で、
「私が残すメッセージに従えば(略)
あなた方はローマを征服することもできるだろう」
と中東地域を超え、ヨーロッパに到る
領土拡大の野望を示唆しています。

中東の周辺諸国は「イスラム国(IS)」をどう見ているのか?

では、中東の周辺諸国は、「イスラム国(IS)」を
どのように見ているのでしょうか?

「イスラム国(IS)」に集まってきている人たちの多くが、
厳格なイスラム思想(サラフィー主義)を持つ若い世代です。
中東をはじめ、世界各国から「イスラム国(IS)」に参画しています。


このサラフィー主義とは、
一言で言えば「初期イスラムへの回帰を呼びかける思想」であり、
今から約1,400年前の
イスラム教開祖・ムハンマド(マホメット)の時代の
初期のイスラム共同体を理想とし、
その共同体を現代に蘇えらせようとする回帰運動のことです。

このサラフィー主義に基づく国家運営を目指す
「イスラム国(IS)」は中東の周辺諸国からも
極端なものとして見られています。

しかも、「イスラム国(IS)」の厳格性と攻撃性は、
国家の安全と存続を脅かす可能性があるとみなされています。

ですから、個人として共感する人たちはいますが、
中東といえども国家として
「イスラム国(IS)」を支持する国は皆無です。

サウジアラビア、エジプト、トルコといった
同じスンニ派の国々も「イスラム国(IS)」を攻撃する
アメリカ主導の「有志連合」に参加しています。

「イスラム国(IS)」存続は厳しいが、その理念自体は支持される可能性がある

長期的に「イスラム国(IS)」が国家として
繁栄することは考え難いと思います。
(実際に最盛期と比較し、
徐々に支配領域は減少しつつあると考えられる)

しかし、「イスラム国(IS)」が掲げた
「サイクス・ピコ体制の打破」と
「統一的なイスラム国家の建設」という理念は、
潜在的にイスラム世界で多くの人たちの
賛同を得る可能性が高いと言えます。

たとえ「イスラム国(IS)」がなくなったとしても、
イスラム世界からまた新たなリーダーが現れ、
新たなイスラム共同体を創ろうとする動きは
今後もあらゆる場面で出てくるでしょう。

そのとき、どのようなリーダーが現れ、
どのような考え方で動くのかによって、
中東の未来はさらに混沌としたものになるか、
新しい秩序が生まれるかが
決まっていくのではないかと思います。

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